木のクマを倒せ!3
「一斉に魔法を放つぞ!」
「ほら、エニ!」
「うん!」
ジケに促されてエニも魔法使いの端に並ぶ。
「よーい!」
ルシウスの号令で魔法使いたちが一斉に魔力を高める。
エニも目を閉じて体の中から魔力を引き出していく。
エニが持つディスタールがほんのりと赤く発光する。
魔法使いたちが魔力を放つと空中に放たれた魔力が真っ赤な炎に変わっていく。
ベテランの魔法使いが上手く炎をコントロールしてみんなの力を一つに集めていく。
ここら辺の力のコントロールはまだまだエニにはないところである。
「放て!」
大きな魔力の存在に気づいたのかウッドベアが火の塊を見て咆哮する。
咆哮までするなんて本当にクマみたいである。
炎に気づいたウッドベアであったがもう遅い。
魔法使いたちが一斉に魔法を撃ち出すと炎の塊が渓谷の真ん中に鎮座しているウッドベアに飛んでいった。
ウッドベアは迫り来る炎の塊を仰ぎ見る。
大きな炎の塊をウッドベアはかわすことができずそのまま直撃して大爆発を起こした。
「うっ!」
爆発によって渓谷を熱い空気が駆け抜ける。
ジケは熱さから顔を守るように腕を上げ、ミュコはちゃっかりとジケの後ろに隠れてジケを壁にしていた。
「これなら……」
ウッドベアも無事には済まないんじゃないかとジケは思う。
あんな攻撃くらえば例え植物型の魔物じゃなくてもやられてしまう。
戦いを見学して経験を積みにきたのだけど魔法で終わってしまいそうだ。
ただルシウスたちは倒せだろうなんて考えて警戒を解くことはしない。
魔法使いたちが下がって剣を持った騎士が代わりに前に出る。
「うわ……」
「生きて……ますね」
魔力の炎がバチバチと燃え上がりウッドベアの様子はすぐに見えなかった。
しかし渓谷に生えている植物は少ししかない。
他に燃えるものもないので渓谷を赤く燃やしていた炎はすぐに小さくなり始めた。
跡形も残らないかもしれないという予想を覆して渓谷の真ん中には黒い影が見えた。
姿ぐらいは残っていてもおかしくはない。
倒せたのかと目を凝らしているとウッドベアがゆっくりと体を動かした。
あれだけの火力で攻撃されたのにウッドベアは死んでいなかったのである。
「表面が崩れてく……」
お尻から伸びる根っこを引きちぎりながら立ち上がったウッドベアの体の表面がボロボロと崩れて落ちていく。
一口に植物型と一括りにされるが細かく見ていくと植物型の魔物にも色々と種類がいる。
花やツタなど草っぽい魔物もいればケントウシソウやウッドベアのように木っぽい魔物もいる。
植物としての性質も様々であり簡単に火で燃えたりダメージを受けるタイプの魔物が植物型には多いのだけど、中には火をさほど苦手としない植物型の魔物もいる。
焚き火をやろうとする時も水分の多い生木はとても燃えにくかったりする。
ケントウシソウなんかはかなり水分を含む木の魔物なので植物ながら火で燃やして倒すのはかなり大変である。
そしてウッドベアも同じく水を含む木のタイプだった。
魔法使いたちの力を合わせた魔法は一瞬の火力は非常に高くウッドベアの表面を燃やしてしまったが、仲間で火をつけることができなかった。
ウッドベアは燃えてダメになった表面を切り捨てて大爆発から生き残ったのである。
「総員突撃だ!」
攻撃の影響でウッドベアの動きは鈍い。
ルシウスたち騎士がすぐさまウッドベアに走り出す。
「ぐっ!」
先に到達した騎士が剣を振り下ろした。
剣が届くその瞬間ウッドベアが再び咆哮して騎士が吹き飛ばされた。
魔力が込められた咆哮はそれだけでも威力があり、まだ地面でくすぶっていた炎も咆哮によってかき消されてしまった。
「わっ、なんか出てきた!?」
ウッドベアの背中の毛のようになっているところが開いて中から小さいものが飛び出してきた。
「うわっ!?」
小さい何かは騎士に向かって飛び上がった。
騎士が防御しようと腕を差し出すと鋭い痛みを感じて顔をしかめる。
それは小さいウッドベアであった。
「下がれ! 治療してもらうんだ!」
「は、はい!」
ルシウスが騎士の腕に噛み付いたウッドベアを槍で倒して、さらに襲いかかってくるミニウッドベアを叩き落とす。
「このためにこんなところに来ていたのか」
「どういうことですか?」
ジケたちの近くにいた魔法使い騎士が顔をしかめる。
「植物型の魔物は植物の性質を持つ。その個体数を増やすためにタネを出して仲間を増やすものもいるんだ。ウッドベアも種子を出して個体数を増やそうとするだが……」
「あの小さいウッドベアがタネってことなんですか?」
「そうだ。こんな場所に来たのは謎だったけれどタネを放出するのに安全な場所を探していたのだな」
ミニウッドベアはウッドベアのタネであった。
タネを出すほどに長く生きて成熟したウッドベアは人間にとっても脅威になるほどに強いがタネのミニウッドベアはまだまだ狙われるぐらいの強さしかない。
安全な場所を探して移動した結果この渓谷にたどり着いたのだろうと魔法使い騎士は思った。
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