木のクマを倒せ!1
特に問題もなく魔物に襲われることもなく渓谷までやってくることができた。
渓谷の入り口では一般の人が入らないように兵士が封鎖をしていた。
国有地であるので封鎖している兵士は国の兵士である。
「それでは渓谷を捜索していくことにしよう」
渓谷の入り口付近にテントなどを張って拠点とし、まずは魔物の調査や地形の把握などを行う。
「それでどんな魔物が出るの?」
渓谷は一本道ではなくいくつか枝分かれしていて意外と道幅も広い。
騎士たちは二手に分かれて調査を始める。
「俺が聞いてるのはウッドベアという魔物だってことだけど」
ミュコの質問にジケが答える。
「ウッドベア……」
頭に木でも生えてるのかなとミュコは想像してみる。
デカいクマの頭に木が生えていたらなかなか面白いかもしれない。
「どんな魔物なのかな?」
「俺も詳しくは知らないんだ」
クトゥワにでも聞いておけばよかったと出発してから気がついた。
魔物の研究をしているクトゥワなら簡単に色々と教えてくれるのに聞かずに来て失敗してしまった。
「ふふん、私が教えてあげる」
ジケとミュコの会話を聞いていたウルシュナが得意げな顔をして入ってくる。
「ウッドベアは木で出来たクマなんだよ」
「木で出来た……クマ?」
「どういうことだ?」
ミュコもジケも不思議そうな顔をする。
「ベア……クマなんて言ってるけどケモノタイプの魔物じゃなくて実は植物タイプの魔物なんだ。だから……なんていうのかな? 木がクマの形してるって感じ、らしい」
ウルシュナも直接ウッドベアを見たことがないので最後は少し自信なさげ。
ジケやミュコは何か木でも生えたクマを想像していた。
けれどウルシュナによるとそうではなかった。
木が生えたクマなのではなくクマの形をした木なのであるらしいのだ。
余計に謎であるとジケは思った。
「見た方が早いですよ」
ジケたちがついていっている騎士の一人が軽く笑う。
口で説明できることも必要だけどそのうち戦う相手なのだから見た方がよほど理解できるだろう。
「痕跡があるな。ナワバリの証だろう」
ウッドベアの謎は残りながらも渓谷を進んでいくと落ちている岩に爪痕のような傷がついていた。
斜めに四本並ぶ深い傷は植物がつけたものには見えないけれども騎士によるとウッドベアがつけたものであるようだ。
ナワバリを主張するためのものでこうした痕跡があるということはウッドベアが近くにいるということである。
「気をつけて進むぞ!」
渓谷の道は意外と草は生えているものの隠れるようなところがない。
ウッドベアは比較的大型の魔物であるので不意の遭遇の可能性低い。
だからといってあり得ないと油断していてはいけない。
ウッドベアのナワバリに入ってきたことは確実なので騎士たちはより一層警戒を強めて渓谷を進む。
進んでいくと別の道を進んできた騎士たちと合流した。
「あれがウッドベア……」
渓谷の真ん中はかなり広くなっていた。
その真ん中に地面を見つめるようにして座り込む黒いものが見えて騎士たちは気付かれないように遠くから様子を見る。
「クマ……だね」
「でもよく見ると……なんか違うな」
遠くから見ると普通に黒っぽい熊に見える。
けれどよく見てみるとおかしなところがある。
パッと見て違和感があるのは体の至るところに葉っぱが生えていることである。
普通の熊には葉っぱなんて生えていないので明らかにおかしい。
さらに細かく見ていくと毛皮に見えている表面の毛も実は毛ではないことも分かった。
顔を見ると眼球がなく、チラリと見える口の中も歯のような形をしたものがあるのだけど白くはなく体と同じく黒いものが並んでいる。
なるほどとジケは思った。
まさしく木で出来たクマだ。
ただ植物のためか呼吸をしている様子もなく生きているのかと疑問にすら思う。
「あっ動いた」
ウッドベアが動き出して騎士たちはさらに一歩下がる。
「根っこ……?」
立ち上がるウッドベアのお尻から地面に何かが伸びていた。
ウッドベアが動いたのでぶちぶちとちぎれるそれは根っこのように見える。
「ウッドベアはああして根を張り水分などを補給するのだ」
ウッドベアは植物ながら動物的な性質も持つ。
他の魔物を攻撃して魔物の死体を捕食することもあるだが、植物らしく根っこを張り栄養を地面から吸い上げることもする。
今は地面に根を張って水を吸い上げていたようである。
本当に不思議な魔物であると感心してしまう。
動物的に他の魔物を狩ることでただその場に止まって地面以外からも栄養を確保するという方向に進化した魔物である。
どんな変化を遂げてそうなったのか知らないがかなりユニークなことは間違いない。
「魔物のことは確認した。一度下がるぞ」
植物型の魔物というのは比較的おとなしいものも多い。
地面に根を張って固定されているという特性のためか人を襲わないものや一定範囲内に入らないと攻撃してこないものがいる。
ケントウシソウなんかがそうである。
だが動物的な性質を持つウッドベアは人間を見つけると積極的に攻撃してくる。
ウッドベアが渓谷にいることは確認できたので騎士たちは見つかる前に引き下がる。
四足で歩く姿もノソノソとしていてクマそのものであるなとジケは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます