問題発生3
「何か問題でもあるんですか?」
「色々と問題がある」
回り道をすればいいというのは簡単であるが回り込むルートの方にも問題がある。
「渓谷を避けてぐるりと回り込む道はあるのだがそちらも魔物によって封鎖されているのだ」
「ええっ?」
「こちらは少し事情が違うけれどな」
魔物による往来の制限というのはしばしば起こりうる。
基本的には道などの近くに想定しない魔物が現れた時に封鎖などされ、渓谷の封鎖は普段いない魔物が現れたことによる調査や討伐などの必要から行われている。
対して迂回路となる道の封鎖は少し事情が違っている。
「魔物の発情期のために道が封鎖されているのだ」
迂回路の方は想定した通りの魔物が想定した通りの行動を取ったために封鎖となった。
魔物だって生き物な以上生殖活動などを行うものも多い。
シルウォーのようにある程度人間と共生的な関係で生きている魔物も世界には存在する。
そうした魔物が迂回路の方にはいるのだがちょうど今時期がその魔物の発情期となる。
発情期となると警戒心が高くなり攻撃的になる。
なので発情期の時期は道を封鎖して人間は立ち入らないようにするのだ。
「つまり……渓谷の魔物がいると迂回の迂回をしなきゃいけないということですか?」
「そうなる。それでも急げば間に合わないということはないだろう。けれどラグカまでの道中に何があるか分からない以上はリスクが大きい」
「そんなことがあったのは分かりましたけど、それを俺に言うってことは……」
関係のないことではない。
ただジケが関わらないようなことをダラダラと伝えるために呼んだのではないだろうということは分かり切っている。
ならばその迂回に関して何か関わるか、もしくは迂回しなくていいようにジケが関わることになるのだろうと思った。
「察しがいいな。今回その魔物をゼレンティガムで討伐することにした。すでに承認は得ている」
「それもいいんですけど俺も……行くんですか?」
「その通りだ」
ゼレンティガムで渓谷に現れた魔物を倒すのは別にいい。
ただそれだってジケに話す必要はなく倒してくれればいいのだ。
にも関わらずジケに話すということはジケも関わらせるつもりなことは明白だ。
「理由をお聞かせいただいても?」
ただジケを連れて行こうとする理由は分からない。
ゼレンティガムが人手不足なことはないだろう。
わざわざジケに声をかけて連れて行くことはない。
「人間ある日いきなり強くなるなんてことはない」
フッとルシウスは笑った。
「人の強さとは日々の積み重ねによって生まれる。今君の双肩には娘の将来がかかっている。少しでも強い方がウルシュナのためになる」
「俺に経験を積ませようということですか?」
「その通りだ。このことを経験しても君の強さは変わらないだろう。しかし経験したことは君の中に積み重なり、いつか強さになる。願わくばラグカに着く頃には強さになってくれるといいのだけどな」
ジケのために、というよりもウルシュナのため。
ジケが少しでも強い方がウルシュナが自由になれる可能性が高くなる。
魔物を一度倒したぐらいで人は強くならないけれど何かと戦う経験は確実にジケの中に蓄積される。
良い機会などと言うつもりはルシウスにもないけれどこの機会にジケを連れて行って経験を積ませようというのである。
「どうだ? 一緒に行くか?」
「……はい。それでは経験させていただこうと思います」
「良い心がけだ。主に戦うのはゼレンティガムの騎士だから安心するといい」
「うちの騎士もいいですか?」
「わ、私ですか?」
「良い経験になるならうちの騎士にも経験させたくてね」
「もちろん構わない」
向上心も素晴らしい。
部下思いでもある。
戦いの才能だけでなく人の上に立つ才能もあるとルシウスは思った。
ルシウスはニコリと笑うと紅茶を一口飲んだ。
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