問題発生1

 ウルシュナを守るために婚約者としてラグカに行って戦うことになった。

 しかしその話も今すぐ出発するというものではなかった。


 大会のための準備とか色々あるようでラグカに向かうのはもう少し先だったのだ。

 ラグカは海を渡った国となり、出発する準備などはゼレンティガムの方で進めてくれる。


 つまりジケにできることは今のところないのである。

 できることといえば精々いつも通り鍛錬するぐらいだ。


 なのでいつも通り過ごすことにした。

 元々お風呂作りのためにウルシュナの家にお邪魔させてもらった。


 なのでウルシュナの家で見せてもらったものを参考にお風呂を作ってみることにした。

 作るのはノーヴィスなのでジケは完成したら試すだけではあるけれど。


 しかしお風呂を作るのも簡単ではない。

 ウルシュナの家で見せてもらった多人数が入れるような大きな浴槽を設置するのは大変である。


 ボロ屋の二階などの上の階に設置するのは無理だし、ゼレンティガムを参考にすると一階丸々ぶち抜くぐらいの広さが必要となる。

 だからノーヴィスには個人用の浴槽を作ってもらい、ジケはみんなで使えるお風呂をどうするか悩んでいた。


「やっぱり隣の家かな……」


 計画としては今現在水搾り家の隣の家を丸っと改築してお風呂にしてしまおうと考えていた。

 なんだかジケが所有する家が増えていく気がする。


 ただ貧民街の人はたくましいもので、平民とかなら住んでる家を明け渡すのは嫌がるのだけどジケ周辺の人はむしろジケがお金で家を買ってくれないかと期待している節すらある。

 そもそも買った家でもないからジケがお金で引き取ってくれるとただ丸儲けなのである。


「まだ問題もあるしな」


 実際お風呂を沸かして入るところまではいい。

 問題はその後にもあった。


 残った水をどうするか問題があるのだ。

 またケントウシソウの乾燥コブに吸わせて川に水を捨てるのがいいかなとは思っている。


 そのために簡易的な蒸し器を積んだ馬車を開発してもらおうかなとか悩むことは多い。


「疲れた!」


 考えるのに飽きた。

 ジケはフィオスを引っ掴むと顔をうずめる。


 ちょっと冷たくて、プルプルと震えるフィオスが心地いい。

 そもそもジケもそんなに頭の良い方ではない。


 一気に物事を考えようとするとパンクしてしまう。

 お風呂だってジケの趣味のようなものなので少しずつ進めていけばいいやと思った。


「クトゥワとキーケックにも相談してみるか」


 こうした時には頭の良い人の知恵を借りるのも必要だ。

 頭使ったし次は体でも使おうかなとジケはフィオスを抱えて立ち上がった。


「おや?」


 家から出るとちょうど道の向こうから馬が緩やかな速度で走ってくるのが見えた。

 上に乗ってるのは身なりのいい騎士である。


 こんなところに騎士は基本的には来ない。

 来るなら何か大事件があった時か、誰かに貴族の用事でもある時だ。


 大事件があったらジケの耳に話は届いているだろう。

 ということは残るは誰かに何かの用事があることになる。


「あっ? あー……」


 騎士が近づいてきて顔がハッキリ見えるようになるとなんとなく見覚えがある顔だなとジケは思った。

 確かに先日ゼレンティガムに行った時にチラリと見た訓練している騎士の中にいた若い騎士だったような気がする。


 そうなってくると誰が用事の相手なのかはうっすら予想がつく。

 じゃあ次はなんの用事かである。


 ジケに気づいた騎士は少し手前で馬を降りた。

 目の前で馬に乗っていることがないような細やかな配慮である。


「ジケ様ですね。私、ゼレンティガムの騎士ワーズマと申します」


 馬を引いてジケの前まで小走りでやってきた騎士は胸に手を当てて敬礼する。

 いかにも真面目な騎士という感じの青年だった。


「俺がジケです。今日はなんのご用ですか?」


 顔見知りともいえない関係のワーズマがジケのところに遊びにきたとは思えない。

 ゼレンティガム、ルシウスかウルシュナから何か用事があるのだ。


「はっ! お時間がある時に訪ねてきてほしいとルシウス様が」


「ルシウスさんが? 分かった、すぐに向かうと伝えてほしいです」


「承知いたしました!」


 やたらとかしこまった態度のワーズマはわざわざ少しジケから離れて馬に乗って去っていった。

 別に目の前で馬に乗ってもいいのにとジケは苦笑いを浮かべる。


「呼び出しか……もう出発なのかな?」


 準備が整って出発の時が決まったからその話かなとジケは思った。


「ユディット」


「はい! どこかお出かけになられるのですか?」


「うん、ちょっとゼレンティガムまでね。それにシハラも久しぶりだね」


「お久しぶりです、ジケのアニキ!」


「相変わらず元気そうだね」


 馬車でも使っていこうと思ってユディットの家を訪ねた。

 今日の護衛はユディットなのだけどジケが自分の家にいる時にまでピッタリそばにいる必要はないので外出する時以外は家で休んでもらっていた。


 家にはユディットだけでなくユディットの弟のシハラもいた。

 ジケによる治療ですっかりと良くなったシハラは元気に生活していた。


 ユディットがジケに雇われてちゃんとしたお給料も貰っているので最初にあった頃よりも体ががっしりしてきている。

 そして治してくれた感謝からかシハラはジケのことをジケのアニキと呼ぶのである。

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