チェック5

「婚約者がいるからって神女からは逃れられないわ。子供でもいるなら別だけどね」


「ただ子供作れってわけじゃなさそうですね?」


 流石に今から子供は作れない。

 そう簡単にできるものでもなければまだジケもウルシュナも子供である。


 ウルシュナは子供なんて早いしと顔を赤くしている。


「子供を作る以外にもう一つ神女を辞める方法があるのよ」


「その方法は……なんですか?」


「神女が選ばれると神女の夫の座、つまりは王の座を競い合って大会が行われることになっているの」


「大会……」


「知力や武力、運なんかを競い合って神女の夫としての座を奪い合うのよ。本当はラグカの人しか参加できないんだけど国外の人でも参加できる条件があるの」


「それが婚約者……」


「その通りよ」


「というかそれじゃあ俺にその大会に参加しろって言ってます?」


 そうなってくるとただ婚約者のふりをするのとはだいぶ求められる役割が違う。


「そうね……婚約者のふりだなんて言葉で濁さず言うべきね。ウルシュナを助けてくれないかしら? ウルシュナの婚約者としてラグカの大会に出場して優勝してほしいの」


「分かりました。俺でよければ全力を尽くさせていただきます」


「あら、返事が早いのね」


 悩むこともなくジケは答えた。


「他でもないウルシュナのためです。ためらうことも悩むこともありません」


「ジケ……」


 流石にウルシュナもドキリとした。

 ウルシュナはもう大事な友達だ。


 婚約者のふりだろうとウルシュナのために大会に出ることだろうとジケにできることなら何でもする。


「ウルシュナもそれでいいかしら? 勝手に話を進めてしまって申し訳ないけれどジケ君が来てる今が話す機会だと思ってたのよ」


「えっ、あっ、うん、ジケなら……大丈夫かなって思うけど……」


 ウルシュナ自身あまり話を飲み込めていない。

 ジケが婚約者になるとかラグカの神女の話とかいきなりすぎてどうにも混乱している感じは否めない。


 でもサーシャとルシウスがウルシュナのためにどうにかしようと考えてくれたことは分かったし、ジケもそれに協力しようとしてくれている。

 ジケならば、ジケに任せておけば大丈夫だろうなんて思っちゃう自分がいるとウルシュナは感じていた。


「ちなみにね。私も神女に選ばれたことがあるの」


「えっ!?」


 サーシャは微笑みを浮かべた。


「実は私神女となるのが嫌で国を飛び出したのよ。結局見つかって連れ戻されそうになったところをルシウスが助けてくれたの。周りの反対全てを押し切って私を婚約者にして、そしてラグカに行って大会に優勝したのよ」


「サーシャ……」


 ルシウスが恥ずかしそうに眉をひそめている。


「優勝したんだからサーシャは私の妻だ。国に連れ帰させてもらうってね」


「やめてくれ……」


 ルシウスの耳が赤くなっている。

 どうやら嘘の話ではなさそうだ。


「まさかあなたが神女に選ばれるとは思いもしなかったけれど私の血なのかしら」


「ルシウスさんがいきなり手合わせしようって言ったのって……」


「君の実力を試させてもらった。強いとは分かっていてもどこまで出来るかは知らなかった。娘を任せられるか直に確かめたかったのだ」


「それでこの話をしてくれたってことは」


「君には十分な実力がある。娘を……ウルシュナを頼むよ」


「……はい」


 ルシウスの真剣な眼差しにジケも真面目な顔をして頷く。


「こんなことになりそうだからウルシュナをあまり連れて行かなかったのに」


「ちなみにサーシャさんがここにいるってことはラグカの神女はどうなったんですか?」


「別の神女が次に年に選ばれたわよ。それで正式に私は自由になったってわけ」


 つまりどうにか一度逃れれば神女の役目からも逃れられるということのようだ。


「まあ、仮に勝てなかったらウルシュナ連れてまたこの国に逃げるわ。ただあなたにも手伝ってもらうから」


「……何させるつもりで?」


「あなたとの子供ができるまで匿ってもらうわよ」


「お母様!?」


 ニコリと笑ってとんでもないことを言うサーシャにウルシュナが悲鳴のような声を上げた。


「本気よ? ラグカは悪い国じゃないけど……神女になると望まない人生を歩むことになる。なりたいなんて思う子がいるからそれはいいのだけどウルシュナ、あなたは自由に生きるのよ」


「お母様……」


「まあ、俺が勝てばいいんですね」


「ええ、任せたわよ」

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