チェック4
「さすがだな。その顔も」
「流石に敵いません」
ジケの顔には悔しさが滲み出ていた。
負けると分かっていた戦いでも負けると悔しい。
もうちょっとなんとかできたのではないかとかここをこうしていればという考えが浮かんでくる。
それでもルシウスはなんとかしたのだろうけど手を尽くして戦えたとは言えないほどに力の差があった。
悔しさを覚えるのは良いことだとルシウスは思う。
負けを認められないというのなら悪い兆候であるが負けを認めて悔しさを覚えた上で次に繋がることを考えている。
きっとジケはまだ強くなれるとルシウスは目を細めた。
「ジケ、少し話す時間をもらってもいいか?」
「ええ、大丈夫です」
どうして急に手合わせなんてしたのか。
しかもかなり本気に近い力まで出して。
ようやくそれが聞けるかもしれない。
「ここで話すのもなんだ、場所を変えよう」
汗を拭きながらルシウスの執務室に場所を移動する。
「あ、お母様」
執務室にはウルシュナの母親であるサーシャもいた。
「座ってくれ。少し長い話になるかもしれないからお茶を用意しよう」
「……なんで?」
ルシウスに促されてソファーに座ったのだけどジケはリンデランとウルシュナの間に挟まれるような形になる。
正面にはルシウスとサーシャが座ったのでしょうがないのかもしれないけどちょっと気まずさがある。
「それで話はなんですか?」
仕方ないのでそのまま話を進める。
「君にお願いがあるんだ」
「お願いですか? 俺にできることなら何でもしますよ」
ゼレンティガム家にも何かとお世話になっている。
ジケの助けが必要だというのならば手を貸すことは惜しまない。
ただジケに手を貸してほしいことなんて何だろうかと疑問はある。
「単刀直入に言おう。私の娘……ウルシュナの婚約者になってくれないか」
「えっ?」
「へっ?」
「ええええええ〜〜!」
離れたところにも聞こえるほどのウルシュナの声が響き渡る。
ジケもリンデランも予想だにしなかったルシウスの言葉に驚きを隠せない。
「おおおおお父様!? なな、何を言ってるの!」
ウルシュナの顔が一瞬で真っ赤になる。
「まあ待ちなさい」
「待ちなさいじゃなくて!」
「どういうことですか!」
ウルシュナと対照的にリンデランはムッとしたような顔をしている。
「それをこれから話すから座りなさい」
いつの間にか立ち上がっている二人を見てルシウスが困ったように笑顔を浮かべる。
「変なことだったら怒るかんね」
「婚約者……といっても本当の婚約者じゃない」
「はぁ? なにそれ?」
「言うなれば婚約者のふりをしてほしいということだ」
「…………なんで?」
少し話の風向きが変わったなとジケは感じた。
「それについては私から説明するわ」
状況を見守っていたサーシャが口を開く。
「私がこの国の人じゃなかったことは知っているわね?」
「ウルシュナから軽くは聞いています」
どこの国かまでは聞いていないもののこの国の出身でないことはチラリと聞いた。
そのために国に帰ってサーシャが時々いなかったりする。
「ラグカという国が私の故郷になるのだけどそちらの方でウルシュナに関わって問題が起きているの」
「ええっ!?」
問題が起きているなんて知らないとまだほんのりと顔の赤いウルシュナが驚く。
どうやらウルシュナ本人もまだ話をされていないことが多そうだ。
「あなたが何かしたわけじゃないの。これはラグカに伝わる古い風習のせいなのよ」
サーシャはため息をつく。
遠く離れたラグカという国で何があるのだとジケも気になる。
「ラグカには神女という存在がいるの」
「神女?」
聞きなれない言葉である。
ジケだけではなくウルシュナもリンデランも知らないようだった。
「何かしらね……こちらでいえば聖女とかそんなものにも近いのかしら。何十年かに一度ラグカでは神女という存在が選ばれるのよ。そして神女はラグカにとって大きな意味を持つの」
「私も初めて聞いた……」
「初めて話すものね」
母の生まれた国の話ということでウルシュナも話を興味深そうに聞いている。
「神女というのは大きな役割があるの。それは王の妻となること……いえ、性格にいえば神女の夫がラグカの王となるのよ」
「王の妻が神女と呼ばれるんじゃなくて先に神女がいて、神女の夫になると王様になる……ってことですか?」
「その通りよ。だから神女は大きな意味を持つの」
「神女ってやつと私と何の関係が?」
「神女は全くのランダムに選ばれるのよ」
「まさか……」
ジケはサーシャの言葉に嫌な予感がした。
「そう、次の神女にウルシュナが選ばれたのよ」
そう言ってサーシャは深いため息をついた。
「えーっ!? なんで!?」
ウルシュナが驚きに立ち上がった。
当然の驚きだと思う。
「あなたも私ももうこの国の人間。でもあなたの中には私と同じラグカの血が流れている……それにしたって多くいる国民じゃなくてウルシュナが選ばれるなんて」
サーシャは悩ましげにゆっくりと首を振る。
「……それでどうして婚約者という話が?」
婚約者がいると言えば神女という役割から逃れられるのだろうかとジケは考えた。
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