チェック3

「こいつ、あんたの魔獣だろ?」


「あっ、フィオス!」


 見学していた騎士の一人がフィオスを抱えていた。


「俺たちと風呂に入ってたんだぜ」


「えっ?」


「気づいたらお湯に浮いてたんだ」


 フィオスは騎士に降ろされるとぴょんぴょんと跳ねてジケのところまでやってくる。


「……勝手に風呂入ってたのか?」


 ジケが細い目をして問い詰める。

 返事はしないけれど若干気まずさがあるフィオスの感情が伝わってきた。


 体の核まであったまってきたということだなとジケは思った。


「まあいいや」


 怒ったってしょうがない。

 フィオスもお風呂が好きということがわかったのでそれでよしとする。


「とりあえずルシウスさんと戦うぞ」


 フィオスには盾になってもらい剣を抜く。


「準備はいいか?」


「はい、いつでも」


 ルシウスからは肌がピリつくような強い威圧感を感じる。


「いきなりどーしたんだろ?」


 ジケとルシウスが対峙する様子を見ながらウルシュナは首を傾げた。

 なぜ急にジケと手合わせしようなどと言い出したのか全くの謎なのである。


「怒っているような感じではないですしね」


 小さい頃からウルシュナと一緒にいるけれどルシウスが怒っているところなど見たことがない。

 ただお風呂を見にきたジケに怒るはずもないしジケに向けているわけではないが、少し怒りを抱えているようにもリンデランには見えた。


 不思議な手合わせである。

 騎士団のみんなは濡れた髪をそのままにジケのことを応援している。


「ではいくぞ!」


 始まった瞬間ルシウスは真っ直ぐジケに向かった。

 速いと思う暇すらなくジケの目の前に槍が迫った。


 光と一体になったようなニノサンも速いのだけどそれにも負けないほどに一瞬でルシウスはジケに接近した。


「くっ!」


 なんとか反応したジケは盾で槍を防ぐけれど重たい一撃に大きく後ろに押される。


「本気だ……」


 最初の攻撃で騎士団のみんなの顔色が一変する。

 全力ではないが手加減のない攻撃であることはリンデランとウルシュナにも分かる。


 ルシウスはジケに立ち直る隙を与えず攻めかかり、ジケは剣と盾を駆使してギリギリルシウスの猛攻に耐えている。

 よくやる方だと騎士団のみんなは思うけれどこのままでは押し切られて倒されてしまう。


 だからといって変に攻撃に転じればルシウスはその隙を見逃さず勝負を決めてくる。


「ただではやられませんよ!」


 けれどジケだって防御一辺倒でやられるつもりはない。

 ルシウスの勢いが強くて押されていたが攻撃を防ぎながら前に出る。


 ルシウスの槍の距離から自分の戦う距離に持っていきたかった。

 ルシウスは下がってジケとの距離を保つ。


 近づくことはできていないがそれでいい。

 前に出ながらの重たい攻撃よりは下がりながらの方が攻撃はほんの少し軽くなる。


 それでも辛いことに変わりはないがちょっとだけ余裕はできる。


「うりゃああああっ!」


 フィオス盾をやや斜めに構えて槍先を受け流す。

 そのまま腕ごと持っていかれそうな衝撃があるけど耐えて前に出ながら剣を突き出す。


「へぇ、反撃しやがった」


 再び騎士団の兵士たちがざわつく。

 このまま負けるだろうと思ったのにジケは諦めず反撃を狙っている。


 気合いと根性は見上げたものであると感心していた。


「ふっ、やるではないか!」


 無理矢理作った反撃の隙なのでルシウスに剣は軽々かわされてしまう。

 だがジケはまたルシウスと距離を詰めようとする。


「うっ!?」


「まだまだ甘いな」


 攻撃のパターンが変わった。

 突き主体で戦っていたルシウスの槍が下から跳ね上がってきてジケは体を逸らした。


 何も突き出すだけが槍ではないのだ。

 大きく体勢を崩したジケをルシウスは激しく攻撃する。


 一瞬だけいけそうかなどとみんな思った。

 しかしルシウスはそう甘くなかった。


「フィオス!」


「なっ!?」


「おおっ!?」


「いっちゃえー!」


「ジケ君頑張れ!」


 ルシウスが突いた槍をジケはフィオス盾で防ごうとした。

 盾に当たればすぐに槍を引くつもりだった。


 なのに槍は盾を貫通して手応えがなく、意図せず槍を振り切る形になってしまった。

 よく見るとフィオス盾に穴が空いている。


 けれどもそれは槍で空けられた穴ではない。

 フィオスが自ら空けた穴であり槍は見事に穴を通っていた。


 まずいと思って槍を引こうとしたが穴が塞がって槍がフィオス盾に固定されてしまった。

 槍を引っ張る勢いを活かしてジケがルシウスに迫る。


「へっ?」


 真剣なことを忘れてルシウスの胸を狙ったジケであったが気づいたら視界が逆転していた。

 槍を手放したルシウスがジケのことを投げ飛ばしていたのである。


 一瞬のことに何が起きたのかジケには分からなかった。


「うぎゃっ!?」


 背中から床に落ちてジケが転がる。


「くっ……あ、参りました……」


 痛みに耐えて起きあがろうとすると目の前に剣が突きつけられていた。

 ルシウスはいつも剣も腰に差していて、それを抜いていたのである。


「よくやったぞ!」


 騎士団のみんながジケの健闘をたたえて拍手を送る。

 ルシウスを相手によく戦ったものである。

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