チェック2
「まあいいか」
違ったというのなら違ったでお風呂を観察できるチャンスである。
ウルシュナたちのための方は石で作られているためか落ち着いた雰囲気があっておしゃれな感じがある。
今はまだ使わないので浴槽にお湯は張っていない。
騎士団用のお風呂にはあった体を洗う用の浴槽がない。
このお風呂を使うのがウルシュナと両親ぐらいなので使うお湯の量も高が知れている。
わざわざ別にお湯を用意しなくともお風呂の湯量に影響があるほどお湯を使わないのである。
必要ないから置いていないのだ。
その他について大きな違いはない。
石で多少滑りやすくなっているためなのか手すりがあるぐらいだ。
「ここにウルシュナが入ってるのか……」
「……なんか変態っぽい」
「えっ!?」
「さすが変態っぽかったですね」
「うえっ……ごめん」
特に何も意識せずに口からポロリと出た言葉だった。
確かに言われてみればちょっと変態っぽかったかもしれないとジケは反省する。
ウルシュナはほんのりと頬を赤らめている。
リンデランはからかうように目を細めてジケのことを見ていた。
「まあジケ君が変態なのは今に始まったことじゃないですからね」
「ええっ!? 俺がいつそんなこと……」
「いっつもです!」
変態なことではなくても勘違いさせるような言動は多い。
そんな風にリンデランは思う。
ジケにその自覚がないというのもまた悪い。
リンデランの目を見て冗談ではなさそうだと感じたジケは自分の言動を振り返ってみる。
「……そんなに変態っぽかったか?」
ただ何がそんなに変態っぽかったのかジケにはいくら考えても分からない。
若干リンデランとジケの間での間で言葉のすれ違いが起きているけれど、正しく伝えたところでジケには分からないままだろう。
とりあえず発言には少し気をつけようと思った。
「……いつものジケ君でいいですけど他の子には言わないように気をつけてくださいね!」
「あ、うん。分かったよ」
今でもライバルがいっぱいいる。
これ以上増えられたら困る。
ちょっとは勘違いさせる発言をここで押さえておこうとリンデランは少しだけズルくなったのだった。
「まあ後は一人で使う用のやつもうちにはあるよ」
「おっ、それも見せてもらえるか?」
「うん、いいよ」
貴族のお風呂といえば一人で使う浴槽の方がイメージは強い。
ウルシュナの家のように大きな浴室があるのは珍しく、貴族の家でも普通にあるのは一人用の浴槽の方である。
当然ながらそちらのお風呂もウルシュナの家では完備している。
「これだよ」
「ほぉ〜」
ジケがとりあえず用意していたのはただの四角い箱だった。
けれどウルシュナの家にある浴槽はただの箱ではなかった。
「舟みたい……とでもいえばいいかな?」
一人用の浴槽は浴槽に体を預けてもキツくならないように丸みを帯びた形になっていた。
長時間使っているとただ座っているだけでは辛いけれど背中を預けてゆったり座れると同じような体勢でもキツくなりにくい。
「なかなか勉強になったよ」
「この分ならリーデの方は必要ないかもね」
「そうですね。ウーちゃんの家の方がお風呂は優れてますから」
「そっか。助かったよウルシュナ」
「お風呂見せただけだからね」
リンデランの家にも行くつもりであったが、リンデランの家にはウルシュナの家ほど立派なお風呂はない。
見に行っても新たな発見はないだろう。
「ウルシュナ」
「あっ、お父様」
一通り見学させてもらったので帰ろうとしたらご飯でも食べてけばいいじゃんとウルシュナに誘われた。
もうすぐ夕食らしいのでせっかくならお世話になろうと思っていたらルシウスが部屋にやってきた。
親子でぎゅっとハグをする。
なんてことはない光景なのだけどルシウスの顔が少し暗いようにジケには思えた。
「ジケ、少し時間はあるか?」
「ええ、ありますけど」
暗いというよりいつも柔らかい表情のルシウスが固いような感じなのかもしれない。
「俺と手合わせしてくれないか?」
「手合わせですか? いいですけど……」
思いもよらない言葉にジケのみならずウルシュナとリンデランも困惑している。
ジケとしてはルシウスと手合わせすることも望むところである。
ルシウスは強い。
強い人と戦うことは良い経験になるので手合わせできるなら嬉しいぐらいだ。
「なら行こう」
ただどうしていきなり手合わせを? と思う。
ルシウスはなんの説明もせずに騎士団の訓練場にジケを連れてきた。
「おっ、何するつもりだ?」
「ジケと……ルシウス様?」
「おい、なんかやるみたいだぞ」
訓練場には訓練を終えたばかりの騎士たちがいた。
ジケを伴って訓練場に入ってきたルシウスのことを興味深そうに眺めている。
「君は真剣を使うといい」
ルシウスは訓練用の木製の槍を手に取った。
対してジケには普通に武器を使えばいいと言う。
他の人がそんなことを言えば馬鹿にしてと思うところだけどルシウスとの実力差を考えればもっとハンデがあってもいい。
「フィオス……あれ? フィオスは?」
そういえばフィオスがいないということにジケが気がついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます