第十四章

身も心も温まりたい1

 ジケがどれだけ頭をひねろうとも難しいことがある。

 そもそもジケは過去の記憶を活かしてどうにか乗り越えてきた。


 つまり過去で経験のないことはいくら考えようとも知らないし思いつかないこともある。


「うーん……どうしようかな……」


 ジケは頭を悩ませていた。

 ケントウシソウのコブから水を取り出す方法を何とか見つけた。


 蒸して絞ることで青臭さのない水が取れるようになった。

 目的は水なのだけどその副産物をうまく利用できないかとジケは考えていた。


 副産物として生まれる一つ目がケントウシソウのコブのである。

 水を絞った後のケントウシソウのコブは天日干しして水を抜くとよく燃える燃料となる。


 ただしその燃え方もちょっと特殊で炎が燃え上がるように燃えるのではなく高温でじんわりと熱を持つように燃えるのである。

 燃え上がらないというだけであり火力はあるので物を焼いたりするのにもいいのだがちょっと火がつきにくかったりする。


 火が燃え上がらないという性質を活かした利用法もあるかもしれないと思っている。

 もうちょっと細かな特性はキーケックとクトゥワが調べてくれている。


 ついでにケントウシソウそのものの木も活用できる。

 もう一つは副産物というのか微妙であるけれど蒸すという工程についてどうしてもお湯を沸かす必要があるのでそこら辺をもっと活用できないかなんて考えていた。


「小規模ならなんとかなりそうなんだけどな」


 そこでジケが考えていたのはお風呂であった。

 どうせお湯を沸かすのならお風呂にしてしまえばどうかと考えていたのである。


 しかしながら思い立ったようにお風呂にしようと思っても簡単にはいかない。

 お風呂を作ること自体は問題がない。


 多少大変だったりするだろうけど作れはする。

 問題なのはそこ以外のところにある。


「水どうするかってところだよなぁ」


 結局のところ問題は水なのである。

 水源地の不思議な魔物の力も安定してきたのか井戸などの水も回復傾向にある。


 ただそうしたところが問題なのではない。


「大量の水を運んで、大量の水を捨てる……」


 ジケがやろうとしているお風呂というのは個人用のものではなくみんなも入れるような大きさのあるものだった。

 そうなると水がたくさん必要となる。


 人が入れば水は汚れるしどこかで水を捨てる必要もある。

 汲んでくるのだって井戸を独占するわけにはいかないので川まで行かねばならない。


 ケントウシソウから取れる水は飲料水として利用するつもりだからお風呂にするのはもったいない。

 仮にケントウシソウから取れる水をお風呂にすることにしても水を捨てる問題が残っている。


「うーむー」


 頭を悩ませるけれどジケにお風呂屋の知識などない。

 ただお風呂には入ったことがある。


 戦争が起きて後方で死体処理をしていたジケは戦いに参加せずとも戦争には少し関わっていたともいえた。

 命をかけて戦っていた人のことを思えばあんなことで戦争に参加していたなんて口が裂けても言えないが、ジケが戦争の一部であった時もあったのだ。


 そんな時にお風呂に入ることがあった。

 貴族が入るような浴槽があって綺麗なお湯が張られていてなんて物じゃない。


 簡易的なお風呂で地面に穴を掘って水を入れて火でお湯を沸かしたもので、全部魔法使いたちが魔法でやってくれたものだった。

 最前線の兵士たちから入って、ジケが入る頃には水も汚かったけど定期的にお湯を沸かしてくれていたので熱いお湯には浸かることができた。


「きったねー水だったな……」


 ジケはフィオスがいて体の汚れを取っていたので割と身綺麗だったが、熱いお湯に浸かると気分はさっぱりした。

 その時もフィオスはいた。


 テーブルの上にいるフィオスは過去のフィオスと変わりなく青くてプルルンとしている。

 フィオスもお風呂は好きだったのか薄汚れたお湯に浮いていたことを思い出す。


「とりあえず個人用の風呂でも作ろうかな?」


 何もみんなのためにと頑張りすぎることもない。

 ひとまず個人用のお風呂を作って仲間内で交代で入ってもいいだろう。


 個人的のお風呂ぐらいなら水の管理も難しくないし個人用のお風呂の規模ならケントウシソウの水を使っちゃってもいい。


「お前も風呂入りたいよな?」


 ジケがフィオスのことをつつく。

 つつくたびにフィオスの全身がぷるんと波打って揺れる。


 綺麗な水でしっかりお湯に浸かる。

 想像するだけでも気持ちよさそう。


 フィオスもジケの質問に答えるようにぴょんと跳ねて体をプルルンとさせる。


「個人用の浴槽を相談して……お風呂を設置する場所を考えなきゃな」


 なんとなく見通しが立ってきた。


「ジケ、ジケ〜!」


「おう、キーケックじゃないか」


 浴槽を作ると言ったけど実物はジケも知らない。

 リンデランやウルシュナに見せてもらおうかと考えていると家にキーケックがやってきた。


 相変わらずダボっとした白衣を着ている。

 でも実はキーケックも大きくなっていてダボダボ具合を見て大きいサイズものに替えているらしい。

 

 なんでそんなことしてるのか聞いてみたら以前にクトゥワが自分に憧れてダボついた白衣を着ていたことを褒めてくれたからのようだ。

 ジケも可愛いと褒めたことがあって一つダボっとしていることが自分の特徴だと考えているのである。


 あざといとも言えるけどキーケックの場合天然だからいいのだ。

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