宝石収集家の鉄血女王

「デラカリア様、イェルガルはシダルケイが勝ったそうです」


「イェルガル? シダルケイ……?」


 左目に縦に走る大きな傷のある女性が部下の報告を受けて首を傾げる。

 どこかで聞いたことあるような気もするけれどそれがなんなのかパッと思い出せなかった。


 女性の名前はデラカリア。

 近隣諸国に武力で名を轟かすベルンシアラの女王であり、大将軍であった。


「……どこの誰だ?」


 座っていた椅子の背もたれに体重を預けてあごに手を当て考えてみたけれど思い出せなかったので答えを問う。


「少し前にご依頼がありました。内戦中のイェルガルという国で王位を争うシダルテイという人物から兵力を貸し出してほしいということでした」


「だが私は兵を出していない」


「そうですね。ご依頼の代価として提示されたのがサヘルカースジュエリーの幻のピンクダイヤモンドです」


「あー! 思い出した!」


 傷の女性が手を打った。


「今は手元にないけれど絶対に手に入るからなどと抜かした大馬鹿者か。後払いは受け付けないというのに先に兵を出してくれとうるさく要求してきたやつだな」


 ベルンシアラは決して後払いを受け付けない。

 受け付けるとしても半額以上の前払いは確実に必要となる。


 いざ戦いが終わった後に払わないなんてことになれば面倒であるからだ。


「絶対になんてことはないし幻の宝石を持っているなんて怪しいものだ。手に入ったから兵を送ってほしいというのも怪しくて一度持ってこいと返事を出したのだったな」


「はい。その後内戦での争いに負けてしまったようです」


「結局ピンクダイヤモンドは本当かどうか分からないということか」


「……そうでもないようです」


「なに?」


 部下の含みがありそうな言い方にデラカリアは目を細める。


「どうやらピンクダイヤモンドというものの話が最近あるようなのです」


「ほう? それは本当なのか?」


 デラカリアは部下の話に興味を持った。


「仔細はまだ調査中でわからないのですが……とある商会がピンクダイヤモンドを買う相手を探しているらしいのです」


「噂にまでなっているということはピンクダイヤモンドは実在しそうだね」


 火のないところに煙は立たない。

 ピンクダイヤモンドの噂があるということは実際に存在しているとみてもいい。


「だがシダルテイってやつが持ち主ではなさそうだね」


 逆にその噂から分かることもある。

 シダルテイがピンクダイヤモンドの持ち主ならばすぐにでもデラカリアに引き渡していたことだろう。


 そうしなかったということはシダルテイが持ち主ではないということが簡単に推測できる。


「あいつ、私に盗品差し出そうとしていたのかい」


 別に盗品でも構わないが面倒事は面倒である。

 それだけの貴重な品でもう噂になっているということは持ち主も調べようと思えば調べられるはずなのだ。


 たとえデラカリアがピンクダイヤモンドを手に入れても堂々と飾ってもおけないのはいかがなものなのかと思ってしまう。


「断って正解だったね」


 どうせ手に入れるなら正々堂々がいい。

 それでこそ宝石も光り輝くものなのだ。


「ピンクダイヤモンドについて調べな。噂は本当で、持ち主は誰で、どこが売ろうとしてしてるか」


「承知いたしました」


「私の可愛いベビーに新しい子が加わるかもしれないね」


 デラカリアはデスクに置いてある宝石を一撫でする。

 宝石用の小さいクッションの上に置いてある青い宝石は窓から入る光を受けてきらめている。


「うーん……ピンクダイヤモンドを買うならお金が必要だね。どこか戦争で起こしてみようか」


 デラカリアは地図を取り出して眺める。

 頭の半分で今後のことを考え、もう半分ではピンクダイヤモンドのことを考えていたのであった。


 ーーー第十三章完結ーーー

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