戦いが終わって
1番の勝利者は誰だっただろうか。
そう聞かれたらジケはシダルケイだと答える。
シダルテイは打ち果たされた。
悪魔教の力を借りて異形の姿になったシダルテイを支持して最後まで戦い抜こうとする人なんていなかった。
このまま抵抗し続ければシダルテイと同じく悪魔教であると疑われても仕方なく、悪魔教だと断じられれば一族ごと消されてしまう可能性すらある。
我先にと悪魔教と関係ないことをアピールして降伏し、シダルテイが守ろうとしたものはあっさりと落ちてしまった。
シダルテイやシダルケイが意図した形ではなかったけれどもシダルテイの下にいた者たちは自身の無実を叫びながら降伏することになってしまったのである。
一方で悪魔教との関係ではどうか。
これもまたシダルケイの勝ちだったといえる。
秤の男ビヒョンは霊廟の扉の前で秤を自らの首に突き刺して自殺した。
王家の証を盗み出し、王城になんとか忍び込んだ秤の男であったがいざ霊廟の扉を開けようとして地下に閉じ込められてしまった。
なぜならば盗み出した王家の証は偽物だったからである。
王家の証を失った後イェルガル王家では王家の証の精巧な偽物を作った。
王家の証を失ったことを隠そうとしてのことであるが、後ろめたさからなのか偽物の王家の証はあまり表に出ることがなかった。
けれどあたかも王家の証かのように大切に保管されて守られていたのである。
シダルケイはその偽物の王家の証と本物の王家の証をすり替えていた。
つまりシンシアが持っていた王家の証は偽物だったのである。
本物は城の中で大切に保管されていた。
そして偽物で霊廟を開けようとするとどうなるか。
実はここにも罠があった。
偽物で霊廟を開けようとすると地下から出られないようになってしまい外からしか開けられなくなるのだ。
偽物の王家の証で霊廟を開けようとした秤の男は地下に閉じ込められた。
秤の力も自らの命を捧げてくれるものがあって初めて効果を発揮できるものであるらしく、大勢の敵を前にして切り抜けるにはもはや手はなかった。
結果として捕らえられるぐらいならと思ったのか秤の男は捕まる前に自ら命を絶ってしまったのである。
シダルケイの方が秤の男よりも一枚上手なのだった。
「イェルガルにある廃坑の一つに悪魔教の拠点がある。まだあるかは知らんがそこで怪しげな実験をしていた。何をしていたのかは俺には分からないがな」
フクリサはシダルケイに捕らえられた。
秤の男と一緒に動いていたので色々なものを見聞きしていたのだが全てを話すのに二つ条件を出した。
命の保証と話を聞くのはジケというものである。
魔獣に助けられた命なのでどうしても死ぬつもりはないというのは理解するけれど、なぜジケがいなければ話さないのかはジケにも謎だった。
どうやらフクリサに気に入られたようであって、ジケ相手ならなんでも簡単に話してくれたのだった。
「……俺に話せるのはこれぐらいだ」
「ありがとうございます」
「礼を言われることじゃないさ」
悪魔教に不満があったかのようにフクリサは色々とぶちまけた。
その情報を元にしてシダルケイでも動いている。
「どうして悪魔教に?」
ふと気になった質問をフクリサにした。
心の底から悪魔教を崇拝しているような感じがフクリサにはない。
単なる協力関係にジケには見えていた。
それはいいのだけど、どうして不満を持ちながら悪魔教に協力していたのか謎である。
「あの時は酒に酔ってた。ロイラが死んで……俺は荒れて……さらに家内は娘を連れて家を出ていった」
子供までいたのかとジケはちょっと驚く。
「そんな時にあのビヒョンってやつが現れたのさ。悪魔の力ならば魔獣も蘇らせられる、それが正しい均衡だってって言ってな」
フクリサは少し下げてその時のことを思い出す。
「ウソだって分かってたさ……でも……当時の俺はウソだと分かっててもそれを突っぱねる余裕はなかったんだ」
魔獣を復活させてくれるかもしれない。
そんなことできるはずないと分かっていながらも秤の男の口車に乗せられてフクリサは悪魔教に協力することになった。
「魔力がなくて強いヤツが欲しかったんだろう。魔力がないことが必要な条件なんだからロイラを蘇らせてくれるはずないのにな」
それでもいつか魔獣も再会できる日を希望にしていた。
「けれど悟ったんだよ。お前の姿を見てな。スライムとも心を通わせ、共に戦うお前を見て、俺はロイラに恥ずかしくない俺でいられているのかと思ったんだ」
亡き魔獣に縋り付いて悪魔教に協力している。
その姿はきっと情けなく、ひどく落ちぶれたものだとフクリサは感じた。
「目が覚めたよ。今からでもロイラに恥ずかしくないように生きる。一生牢獄でもな」
「俺は偉そうなこと言えないけどそれがいいと思います」
ジケも今回の人生はフィオスに恥じないように生きようと思っている。
そばにいてくれた友に報い、今度こそ共に歩んでいけるような努力をしていこうと誓った。
「まあ後は金だな。出てったが家内と娘に金ぐらい送ってやりたくてな。お前もあの赤い女の子、アレなんだろ?」
「別にそんな……」
「ふっ、若いねぇ。あんなにお前のこと心配して。俺も昔は家内を心配させたもんだ。傭兵だったから色々気苦労はあったろうさ。俺が若い頃は……」
「はは……」
気分が良くなったのかフクリサは昔のことを話し始めた。
過去に酒場で語り始めたおっさんたちのことをほんのりと思い出しながら軽くフクリサの話を聞いていたのであった。
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