誇りある戦い2
フクリサがジケに切りかかる。
純粋な力では敵わない相手なので受け流して防ぐがフクリサはそれも織り込み済みかのように剣を振っていて素早く連続して切りつける。
それでもわずかな隙を見つけて反撃を繰り出す。
「ふっ、やるじゃねえか!」
ただそれもフクリサはしっかりとガードして体勢を崩すこともできない。
確実に修練を積んできた力強さと技術である。
技術を極めたようなグルゼイには勝てないかもしれないけれど実戦で培われてきただろう確かな戦闘の勘はジケよりも優れている。
これは出し惜しみしている場合でも、剣での真っ当な戦いにこだわっている場合でもない。
なんとしても勝たねばならない。
「はっ!」
「おっと! また剣を折ろうとしているな? 前に折られたこと忘れていないぞ!」
ジケの狙いがバレていた。
フクリサはジケが剣を当てた瞬間素早く腕を引いて剣を折られないようにした。
また剣を折ってしまおうと思っていたのにフクリサはそれを見抜いたように剣をまともに当てさせない。
同じ手は二度も通じないとフクリサがニヤリと笑った。
ならば違う手を使う。
「いい加減諦め……なに?」
ジケが剣を振りフクリサが防ぐ。
すぐさま剣を引いたジケは逆の手をフクリサに伸ばした。
盾で殴るつもりかと上半身を逸らしてかわそうとしたが胸がざっくりと切り裂かれてフクリサは大きく目を見開いた。
倒すには浅かったとジケは少し顔をしかめる。
「それ……さっきまで盾だったよな?」
ジケの左手を見ると剣が握られている。
そこには先ほどまで盾を持っていたはずだとフクリサは記憶している。
ここで隙を見せてはいけないとフクリサが大きく剣を振ってジケを牽制し互いに距離を取った。
「魔道具か?」
剣と盾の形を高速で切り替えることができる魔道具なのだろうかとフクリサは予想した。
本当にそんな機能の魔道具があるのかは知らないけれどないとも言い切れないのも魔道具である。
厄介なものを持っていると舌打ちしたくなる。
まだ何か手を隠していそうだったけれど本当に色々と持っている子供であると同時に感心していた。
「そんなものまで隠していたとはな」
フクリサは胸の傷に触れる。
戦えないほどに深くはないが決して浅くもない。
出血の量が多い。
今は痛いだけで問題がないけれどこのまま激しく動き続ければ血が足りなくなってきてしまうだろうと思った。
あまり時間をかけて戦ってはいられないとフクリサの顔が真面目なものとなる。
距離を詰めてこようとするフクリサに向かってジケは左手を突き出した。
「今度は槍か!」
思っていたよりも攻撃が伸びてきて慌ててかわしたけれど頬が浅く切り裂かれた。
剣だと思っていたら槍の形になっていた。
ジケが持っているのはスライムのフィオスでどのような形にも変幻自在なことを知らないフクリサは余計にどんな魔道具なのかと疑問を深める。
仮にスライムだと知っていても何なのだと疑問だっただろう。
「いくぞ!」
槍を避けて体勢を崩したフクリサにジケの方から接近する。
フクリサの交戦距離よりもさらに懐に入り込み、剣になったフィオスと共に攻撃を仕掛ける。
近いと戦いにくいのはどちらも同じであるけれど体格的に大きいフクリサの方が密着されるような距離で戦われるとキツイものがある。
それにジケはまだまだ子供なことを活かした接近戦を繰り広げることもあったので近い距離の戦いにおいてはフクリサよりも一日の長があった。
変に攻撃を仕掛けるとまた剣を折られる可能性がある。
中途半端に距離を取れば槍で攻撃される。
実力では勝てないけれど戦い方を工夫してフクリサに食らいついていた。
けれどもフクリサは懐に潜り込んだジケの攻撃をうまくいなしていた。
動くたびに胸の傷から血が流れるけれど動きは一切鈍ることがない。
「フィオス!」
フクリサは振り上げられたジケの剣を弾き返そうとした。
しかし剣同士がぶつかるような衝撃はなかった。
べチンと音がしてフクリサの視界が青く染まった。
何が起きているのか分からず顔に手をやると不思議な感触の何かが顔にくっついていた。
「ぐああああっ!」
顔にくっついていたのはフィオスだった。
ジケはフィオスをいつものスライム状態に戻してそのままフクリサの顔面に投げつけた。
柔らかなモチモチなフィオスが顔面にぶつかったところでダメージはないが、視界が奪われて誰でも動揺する。
その隙にジケはフクリサの剣を持った右腕を切り飛ばした。
「くそっ! この!」
フクリサはフィオスを顔から引き剥がそうとするけどニュルニュルとしたフィオスは掴みどころがない。
「シンシアさん!」
フクリサはほとんど戦闘不能だと言っていい。
ジケが周りの状況を確認するとシンシアは倒れていた。
「大丈夫ですか!」
「ええ……私は。でも持って行かれてしまいました……」
シンシアは首にかかっているヒモを見て悔しそうに首を振った。
指輪はヒモに繋いで首からかけて隠して持っていた。
しかし秤の男によって指輪はヒモからちぎられて持って行かれてしまったのである。
「いない……」
周りを見回しても秤の男はいない。
もうすでに逃げてしまっていた。
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