誇りある戦い1
「あんたら一体何が目的なんだ!」
周りが苦しむ中で武器を構えたジケが秤の男とフクリサを睨みつける。
悪魔教がシダルテイ側に取り入ったとしてシダルケイを狙うのは分かる。
しかし決闘であんな姿をシダルテイが晒してしまえばシダルケイが倒れたとしても王になることは難しくなる。
もはやシダルテイは見捨てられたも同然であるとジケは考えていた。
しかし悪魔教はまだ諦めずシダルケイの妻子を狙っている。
シダルケイを殺すつもりでシダルテイに魔獣と一つにさせただろうに妻子を狙う理由が分からない。
この後に及んでシダルケイが勝つことでも見越して誘拐しにきたのだろうかとも考えたけれど微妙に納得いかない。
「我々は互いに持たざるもの。ですが我々は目的を知っていて、あなたは知らない。不均衡だ」
秤の男はうっすらとした笑みを浮かべてジケを見ている。
「我々の目的はあなた方が王家の証と呼んでいる鍵です」
「鍵……?」
「そう。王家の証は王城地下にある歴代の王の墓に入るための鍵になっているのです」
それはジケも知っている。
王家の証が本物かどうか確かめるために霊廟を開いたのを目の前で見ていたのだから。
「……なぜそんなものが必要なんだ」
ただ理由が分からない。
なぜ悪魔教が王家の墓に入る必要などあるのか。
「イェルガルの初代の王は戦争によってこの地を勝ち取りました。今でもイェルガルの初代の王は英雄として語り継がれています。
イェルガルの三代目の王は他国の侵略を退け、むしろ攻め込んで国土の拡大を実現しました。こちらもまた英雄視されております」
イェルガル国史にはジケは疎いが国を興した最初の王が優秀だっただろうことは分かる。
「そんな英雄たちが眠っているのが王城の地下なのです」
「……まさか」
英雄とも言われる人たちが眠る場所に行きたい理由。
ジケは少し前に戦ったリッチのことを思い出した。
「スケルトンナイトを作ろうとしているのか?」
死体からリッチを作るということは聞いたことがない。
だからリッチにするとは思わない。
けれどリッチはスケルトンナイトを召喚して戦わせていた。
グルゼイが認めるほどの実力を持ったスケルトンナイトはそれぞれ装備の状態も違っていて同年代のものには見えなかった。
英雄とも呼ばれる人たちを使ってスケルトンナイトを作ろうとしているのではないかとジケは思ったのである。
「ふふふ、賢いですね。その通りです」
秤の男は薄く笑みを浮かべるとあっさりと肯定した。
「……ならどうしてこの人たちを狙う!」
悪魔教が王家の証を狙っていることも王家の証を狙う理由も分かった。
ただそのこととシダルケイの妻子を狙うことの関係が未だに把握できない。
「簡単なことですよ。王家の証は今彼女が持っています」
秤の男はシダルケイの妻であるシンシアを指差した。
「王家の証がどこにあるのか探しました。非常に賢いやり方でシダルケイは自分ではなくシンシアに本物の王家の証を持たせていたのです」
シダルケイは王家の証を守るために策を練っていた。
王家の証を見つけたと公表したけれどどんなものかは言っていなかった。
ただ指輪であるということは少し調べてみれば分かることなのでバレている。
そこでシダルケイはいくつかの偽物を身につけ、身の回りに置いていた。
幸いなことに王家の証が無くなってから偽物で王家の関心を引こうとした人はたくさんいる。
そのために偽物の指輪も保管してあった。
シダルケイはそうした偽物を自分の身の回りに置いて、本物の王家の証を妻であるシンシアに託していたのであった。
実際王家の証は代々王そのものではなく、王妃に贈られてきたものであった。
シダルテイはあまり興味を示さなかったが悪魔教は王家の証を狙っていた。
悪魔教独自に送り込んでいたスパイに徹底的に調べさせシダルケイが王家の証を持っておらず妻のシンシアが持っていることを突き止めたのである。
「妻子は徹底的に守られていた……だからどう狙うか問題でしたが……あのマヌケは上手くやってくれました」
追い詰められたシダルテイを口車に乗せて決闘を申し出るように誘導した。
魔獣と一つになる石も単なるパワーアップの効果があるぐらいにしか説明もしていない。
さらには無意味に家族まで戦場に来させることにも成功した。
「後は混乱を起こして、王家の証をいただければそれでいいのです」
秤の男はベラベラを全てを話してくれた。
持たざるものが何を指すのか知らないけれど微妙な仲間意識を持たれているようで嫌だなとジケは感じた。
「さて、お話は終わりです。フクリサ、頼みますよ」
「またやることになるとはな」
フクリサが剣を抜いて前に出てくる。
以前戦った時にはジケはフクリサに押されてしまっていた。
あれからそれほど時間も経っていないので力の差が埋まるようなことはない。
「将来有望な若者を殺すのは気が引けるが……これも仕事だからな」
「……仕事は選んだ方がいいですよ」
「ふっ、同感だ。だが俺には選択肢がないんだ。……口で語るのは好きじゃない。剣で語ろうぜ!」
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