誇りなき決闘3

「……あれは!」


 決闘の終結かと戦いを集中して見ていたジケはシダルテイが飲もうとしているものに気がついた。

 シダルテイは苦しそうな顔をしながらも黒い石と自分の魔獣の魔石を一気に飲み込む。


 シダルケイがシダルテイの行為の意味を分かっておらず困惑している間にシダルテイの体は変容し始めた。


「う……ゔああああっ!」


 シダルテイの筋肉が膨張するように大きくなって鎧の金具が弾け飛ぶ。

 全身から黒い毛が生えて口元が迫り出すようにして顔の形が変わっていく。


 シダルテイの魔獣は黒いウルフである。

 瞬く間に切り落とされた腕まで生えて姿を変えてしまったシダルケイはワーウルフのような人とウルフが混ざったような姿に変貌してしまった。


 シダルケイ、シダルテイ両方の兵士たちに動揺が走る。


「バルダーさん!」


 あれは悪魔の所業だとジケがバルダーに目を向けた。


「この決闘は取り止めだ!」


 バルダーが喉に魔力を込めて吠えるように声を上げた。

 異端審問官たちが一斉にシダルテイに向かって走り出す。


 このままではシダルケイが危険だ。


「何を……したのだ……」


「クク……溢れんばかりの力……今なら兄さん、あんたを殺せる!」


「グッ!?」


 シダルテイが乱雑に剣を振った。

 シダルケイはなんとか防御したのだがとんでもない力に互いの剣が折れてしまう。


 力を受けきれなかったシダルケイも大きく吹き飛ばされて地面を転がった。


「クク……クハハ! 非常にいい気分だ! 兄さんが地面を転がっている!」


 シダルテイは大きく口を開けて大笑いする。

 今自分がどんな目で見られているのか全く分かっていない。


「殺す……兄さんを殺して俺が王になるんだ」


 シダルテイは激しく地面に叩きつけられて倒れるシダルケイの前に立った。

 どうやって殺してやろうか。


 もはや殺すことは確実でその方法ばかり頭に浮かんで迷ってしまう。

 どうとでもできるというのも悩ましいと思った。


「むっ!」


 大きな斧が飛んできてシダルテイは飛び退いてかわした。


「邪魔をするな! これは決闘だぞ!」


「正々堂々と誇りをかけて戦うのが決闘だ! 悪魔の力を使って邪道な手を使うことは決闘ではない」


「あ、悪魔の力だと……」


「あれが……」


「確かに……異常な姿だ……」


 バルダーは再び声に魔力を込める。

 兵士たちにも聴こえるような大きな声は動揺を生んだ。


 悪魔教とシダルテイの関係は噂されていたが、シダルテイの異常な姿が悪魔のせいだと聞いて味方ですらどうしていいのか分からないでいる。


「何をしている! 決闘に邪魔が入ったのだから止めろ!」


 シダルテイが兵士に声を張り上げるけれど兵士たちは動かない。

 もはや兵士たちはシダルテイが本当にシダルテイであるのかすら分からない。


 悪魔が成り代わった偽物なのではないかと考えている兵士もいた。


「異端審問官が悪魔を断じる! 皆は動くでない!」


 動揺した兵士の頭にバルダーの声はよく響いた。

 動いていいのかも分からない状況ではとりあえず言われた通りに動かないでおこうと兵士たちは思い始めた。


「これはいけませんねぇ」


 部外者を連れてきていたのはシダルケイだけではなかった。

 兵士たちの後ろで秤を持った男が冷静に状況を見ていた。


「均衡ではありません。傾いている。……今は混乱するのが正しい近郊の姿です」


 このままではシダルテイはただやられるだけになってしまう。


「フクリサ」


「ああ、分かった」


 フクリサは手に持っていた筒に火をつけた。

 するとポンと何かが筒から飛び出して空中で破裂した。


「なんだ……あれ?」


 白い煙を出して空中で破裂したものを見てジケは眉をひそめた。

 何かの合図のように見えるけれど何の合図なのか分からない。


「師匠!?」


「ぐあああっ!」


 グルゼイが剣を抜いて近くにいた兵士を切りつけた。

 兵士の腕が切り落とされ何をするのだと驚いたのも束の間、切り落とされた手から黒い石が転がり落ちた。


「ジケ、ここを離脱するぞ」


 グルゼイはそのまま兵士の首を切る。


「な、なんだ!?」


「おい……何をしているんだ!」


 ジケの周りにいた他の兵士でも黒い石を飲み込んで姿を変える者が現れ兵士に動揺が広がっていく。

 場を見回してみるとジケの周りだけでなく敵味方関係なく異形の姿になっている兵士がいる。


「……マズイ!」


 女性の悲鳴が聞こえてジケは慌てて振り返った。

 ジケたちの少し後方にはシダルケイの妻子がいたのである。


 悪魔の力によって魔獣と一つになった兵士がシダルケイの妻子を守る兵士に襲い掛かっていた。

 サルのような姿をした兵士は剣も抜かずに素手で兵士を殴り飛ばしている。


「チッ」


 ジケとグルゼイが同時に走り出す。


「行かせるか!」


 シダルケイは自分の妻子を守る重要な役割をカイトラスに任せていた。

 混乱の最中でもカイトラスはシダルケイの妻子を守るために剣を抜いてサルのような兵士に立ち向かっていた。


 振り回される腕をかわして腹を剣で一突き。


「なっ!」

 

 剣が腹を貫いて倒したと思ったがサルのような兵士はニヤリと笑った。


「ぐはっ……!」


 サルのような兵士はカイトラスの頭を鷲掴みにするとそのまま大きく振り回して地面に叩きつけた。

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