誇りなき決闘2
お互い睨み合ったまま動かない。
風が吹き草が揺れてもシダルケイとシダルテイは微動だにしない。
動くタイミングを見計らっている。
兵士たちも動かず話し声の一つもない。
その時誰かが押し殺したような小さなくしゃみをした。
シダルケイとシダルテイは同時に動いた。
決闘が始まったのだ。
「どう見る?」
バルダーがグルゼイにどちらが勝ちそうか尋ねる。
早めに勝敗を予想して勝ち目がなさそうならジケたちはこの場を逃げなきゃいけなくなる。
正しい予想は大事だ。
「ジケ、お前はどう思う?」
グルゼイは決闘を見つめたままジケに話題を振った。
「……えーと」
ジケもシダルケイとシダルテイの戦いを見ながらどちらが勝ちそうか冷静に分析する。
「シダルケイさん、だと思います」
「ふむ、なぜだ?」
今のところ均衡を保っている決闘ではあるがジケはシダルケイの方が強そうだと思った。
一見すると実力は拮抗しているように見えるが激しく力で押すようなシダルテイに対してもシダルケイは冷静に対処している。
防御する様子にはまだ余裕を感じさせ、上手く反撃の隙を見つけて攻撃もしている。
事前にシダルケイの方が強いと聞いていたけれど確かにシダルケイの方が強そうであった。
「シダルテイの方が勢いがあるようにも見えますけどシダルケイさんはちゃんと全部見えてます。あんなペース持つはずがないので少しずつ均衡は崩れていくと思います」
「良い見立てだ」
「ありがとうございます」
「だからこそ嫌な予感がする」
「嫌な予感ですか?」
グルゼイもシダルケイの方が強いと見ていた。
ただだからこそ嫌な予感がすると言うのだ。
「あまりにも下馬評通り」
グルゼイが知っているぐらいなのだからシダルテイだってシダルケイより自分が劣っていることは分かっているはずである。
実力の差というものは一朝一夕で埋められるものではない。
戦争の間全てを無視して鍛錬に勤しんだというのなら理解できない話でもないけれど、日々ギリギリの判断を求められる戦争中に大きく実力を伸ばせはしない。
ならばどうして負けが見えている決闘など提案してきたのかという疑問がある。
負けることがわかっているはずなのに決闘という方法を選んだのには訳があるはずだとグルゼイは思った。
シダルテイが万が一の奇跡を信じる馬鹿でもない限り勝つための何かを用意している可能性がある。
「それがなんであれ卑怯なものでなければ介入することはないがな」
だけどどうしようもなく嫌な予感がしてグルゼイは目を細めて戦いを眺める。
いつの間にかシダルテイの勢いは減じてシダルケイの反撃の勢いが増してきている。
防御に回るとシダルテイはやや苦しそうな表情を浮かべていて、やはり実力にある程度の差があるようだった。
「まだまだだな」
シダルケイが冷静に剣を弾いて反撃を繰り出すとシダルテイの腕が浅く切れた。
歳の近い兄弟であるシダルケイとシダルテイは何かと比べられてきた。
シダルケイは堅実に王家に伝わっている剣術を習って研鑽を積んできたけれど、シダルテイは地味で実力が上がりにくい王家の剣ではなく派手に戦える双剣を選んだ。
もっと若い頃はシダルテイの双剣に敗れたこともあったけれど、確実に実力を積み重ねてきたシダルケイはいつしかシダルテイの実力を超えていた。
見た目の派手さばかり重視していたシダルテイとの差は開いてしまった。
実際それでも強いのだからシダルテイも才能があったのだろう。
けれども比べられることを嫌って楽な方に逃げたシダルケイとシダルテイにはしっかりとした差が生まれてしまっていたのである。
「くっ……!」
小さな痛みに焦ったシダルテイが双剣を素早く振り回す。
シダルケイは無理に突っ込むことはしないで双剣をさばいて攻撃の隙間を狙う。
「父上にも言われただろう。そのような剣では王家に伝わる技術を打ち破ることはできないとな」
双剣術をバカにするつもりはない。
極めれば強いことなど当然なのであるがシダルテイが目指したのは双剣を使っての武の極地ではなかった。
地味でも着実な強さを誇るシダルケイの剣には敵うはずもないことは昔から言われていたのである。
「うるさい!」
シダルケイの言葉に激昂してシダルテイがまた勢いを強める。
「……何が俺とお前を分けたのだろうな」
むしろ弱くなっている。
そんな風にすらシダルケイは思った。
それはただまたシダルケイとシダルテイの実力の差が大きくなっていただけなのだが、シダルケイもシダルテイの成長が止まっているなど思わない。
小さい頃は比べられながらも仲の良い兄弟だった。
なのに今は命をかけて戦っている。
「ここで全てを終わりにしよう」
シダルケイの中にはまだ情がある。
しかし背負っている民や仲間の思いもある。
「うわああああっ!」
「悪いな、テイよ」
散々剣を振り回した疲労が出てきた。
双剣を振る速度が落ちて生まれた隙をついてシダルケイがシダルテイの腕を切り飛ばした。
勝負がついた。
その場にいた誰もがそう思った。
「何か言い残したいことはあるか?」
双剣であることでなんとか戦ってきた。
そんなシダルテイが片腕を失っては逆転はほとんど無理だろう。
「……なんだ、もう勝ったつもりか」
膝をついて腕を押さえるシダルテイはシダルケイのことを睨みつける。
「何も言うことがないのなら終わらせるだけだ」
「ふふ……」
「何がおかしい?」
「さっさとトドメを刺せばいいものを」
ニヤリと笑ったシダルテイは懐から何かを取り出した。
シダルケイは警戒して剣を構える。
チラリと見えたそれは黒い石のようなものだった。
「何を……」
何をするのかと思ったらシダルテイは黒い石を飲み込んだ。
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