骸骨と戦って2

 知能がないのだから目的もないのかもしれない。

 ただ万が一を考えながらシダルケイは魔物の動向を調べていた。


「……もしかしたらなんですけど」


「なんでしょうか?」


「魔物は悪魔教のせいで発生したのかもしれません」


「悪魔教のせいで?」


 アンデッドの大量発生。

 このことを聞いた時にジケは真っ先に悪魔教との関連性を疑った。


 かつてジケはウダラックというリッチと出会った。

 人が良く明るい性格をしている人だったのだが彼はリッチだった。


 悪魔教は人間をリッチにしてしまう悪魔の実験を行っていた。

 リッチにとっての命ともいえるライフベッセルを掌握して無理矢理命令を聞かせていた。


 ウダラックはリッチにされた時にもう一つライフベッセルを作り出すという機転で支配を逃れた。

 けれどジケが誘拐された時には別のプクサというリッチがいたこともあった。


 悪魔教がリッチを作るのに協力していたビッケルンは行方不明であるしまだリッチがいた、あるいは新たにリッチを作ったという可能性は否定できない。

 リッチはアンデッド系の魔物の中でも最上位クラスとなる魔物である。


 単体でも厄介なほどに強いのだけどリッチは他のアンデッド系の魔物に対して強い支配権を持っている。

 代表的なのがリッチと同じような見た目をしているスケルトンがよくリッチに支配されて動いていることがある。


「つまりは悪魔教のリッチが今回のアンデッドモンスターを動かしている、と?」


「その可能性があります」


 スケルトンがバラバラになることもなく集団として行動している。

 悪魔教がこの国にいてシダルテイ側の領地に逃げ込んでいた。


 そうであると関連づけるにはまだ弱い。

 けれどもそれぞれのことを全く別の事象だと考えるのもまた違和感があった。


 今のところシダルテイが悪魔教と繋がっているというのはシダルケイが流している噂程度のものでしかない。

 しかし仮にそれが本当だとしたら今回のスケルトンの大量発生にも悪魔教が関わっているということで理由がつけられるのだ。


 実際ジケも港湾都市であるボージェナルでリッチが操るスケルトンと戦ったことがある。


「うーむ……」


 シダルケイは悩ましげな表情を浮かべる。

 話が理解できないわけでも納得できないわけでもない。


 ただ納得したくない自分がシダルケイの中にはあった。

 内戦になってから長く、シダルケイとシダルテイは互いに不倶戴天の敵である。


 もはやこの世においてどちらかが死なずには前に進むことなどできなくなってしまっている。

 同じ国に二人の王は立てられないのだから仕方ない。


 シダルケイもシダルテイを殺さねば自分が殺されてしまうことは理解している。

 どんな手を使っても勝たねばならない戦いであることは確かなのだが、どんな手の中にもルールというものがある。


 異端な宗教と協力し、人の命を弄ぶようなアンデッドを駆使することは言語道断である。

 ましてアンデッドを兵力として最前線において戦わせるのならともかく、今アンデッドは戦場と関係ない場所にいる。


 つまりシダルテイが悪魔教と組んでいることを認めると、アンデッドを使って戦争に関係ない国民の命を脅しに使っていることになる。

 そこまで落ちたかと認めたくない気持ちの方が強かった。


「シダルテイが関わっているしてもいないにしても悪魔教が関わっていることは間違いないと思います」


「……そうだな。証拠もない以上決めつけることもできない。もし仮にシダルテイのやったことだったらとしたら責任は取ってもらう」


 本当にシダルテイがやったことなら許されざる行為である。

 もうシダルテイのことを生かして残しておくつもりはなかったけれどシダルテイの関係者全てを根絶せねばならないかもしれない。


 シダルケイは深いため息をつくしかなかった。


「シダルケイ様、少しよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「ご報告したいことが」


 兵士が一人、シダルケイのところにやってきた。

 何かを話したいようでチラリと部外者であるジケに視線を向けた。


「構わない。この方になら何を知られてもいい」


「分かりました。ではご報告いたします。魔物の群れが動き出しました」


「なに? どこに向かっている?」


「それはまだ分かりませんがこのまま直進していくとオオツアイに突き当たる可能性があります」


「オオツアイだと? ……それはまずいな」


「オオツアイとは?」


「我が国の中心ともいえる都市です」


 イェルガルにおける政治の中心はシダルケイがいる首都ガルダンである。

 しかしオオツアイは経済の中心ともいえる都市だった。


 西にある鉱山から採られた鉱石を集めて加工しているのがオオツアイの町なのである。

 職人も多くいて加工された商品を扱っているためにイェルガルのお金を回している町なのである。


「報告ありがとう。……オオツアイは守らねばならないな」


 オオツアイはこれまでシダルテイの側にあった。

 けれどシダルテイが攻勢に出てオオツアイは今シダルケイの手中にある。


 経済の中心なので人口も多く、これから内戦が終わった後には復興に必要な町となる。

 避難などで対処するのではなく確実に守らねばならない都市であった。


ーーー

後書き

本日8/20に『スライムは最強たる可能性を秘めている~2回目の人生、ちゃんとスライムと向き合います~』の二巻が発売となります!


ここまで来ることができたのは読んでくださる皆様のおかげです!


頑張って加筆修正しているのでよければ書籍の方も手に取っていただけると嬉しいです!

三巻も出したいので買ってください!


コミカライズの方も漫画家さんが頑張ってくれています。

チラリと最初の方を読ませていただきましたが絵になるとまた違った趣があってよかったです。


何にしてもWebの方は連載を続けていきます。

ジケの物語はまだ続きますのでWeb、書籍共に応援していただけるととても嬉しいです!


改めて読者の皆様には感謝しております。

これからもよろしくお願いします!

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