骸骨と戦って1
シダルケイは一気に動いた。
まず王家の証を取り戻したことを大々的に発表した。
同時に中立派の勢力や立場を迷っている貴族を一気に引き抜いて戦線を押し上げた。
ほとんど国を二分するような位置で押し合っていたのがシダルケイが大きく優位に立つことになった。
疲弊していた国民たちは新たな王が定まることに期待を寄せ始め、戦況は覆しにくいところまで来ていた。
さらにシダルケイは裏でシダルテイが悪魔教と手を組んでいると噂を流した。
イェルガルにおいても悪魔教は歓迎されるものではない。
シダルテイが悪魔教と繋がっているかもしれないという噂に動揺する人も少なからずいることも確かなのである。
誰もがシダルケイの勝利を予想し始めた。
「魔物が発生しました!」
あまり急に追い詰めすぎても反発を生む。
程よく戦いながら相手を詰めていって最終的には降参を促したいとシダルケイは考えていた。
相手の戦力はどうなってい、どう攻めて、どう説得するのか考えていたところに伝令の兵士が飛び込んできた。
普通の魔物が発生したというのならわざわざシダルケイに報告に来る必要もない。
ということは何か大きな危機があって報告に来たということである。
軍事会議真っ最中の報告にシダルケイを始めとした幹部級の人たちが視線を向ける。
「何があった?」
「南部地域にて大量のアンデッドモンスターが現れたとのことです!」
「なんだと!?」
アンデッドモンスターは通常簡単には大量発生するものではない。
長らく続いた戦争の影響がこんなところで出てきたのかとシダルケイは眉をひそめた。
「詳細な位置、魔物の報告は?」
「調査中になります。急ぎ魔物の発生を報告に参りました!」
「そうか、詳細な情報を調べてまとめてくれ。魔物の種類、規模、どこに出たか、近くの町、全てだ」
「はっ! 分かりました!」
「シダルケイ様、いかがなさいましょうか?」
「一度進軍を止める。被害の状況によっては派兵しなければならない」
「しかし! 後一歩なのですよ!」
もう少し押せばまた寝返るところも出てくる。
そうすればシダルテイ側もかなり苦しくなってくるところまで来てきた。
「優先すべきは民だ。ここで民を見捨てて王座に座ろう者を誰が王として祝福してくれるだろうか」
戦争を早く終わらせたい気持ちはわかる。
けれどもここで魔物よりも戦争を優先してしまったら被害に遭ったタミはシダルケイのことを王として歓迎してはくれない。
戦争にかまけて民を放っておくことなどシダルケイにはできなかった。
「あまりにも都合が良すぎる……」
ただこのことを偶然と片づけるには違和感があるとシダルケイは感じていた。
戦争が起きて多くの人が亡くなった。
戦争に嫌気が差して重たく感じの悪い空気が流れている。
アンデッドモンスターが発生してもおかしくはない。
ただタイミングが悪い、あるいはタイミングがいいともいえる。
形勢が傾き、これ以上傾けば勝利が決するという状況で対処せねばならない問題が発生した。
場合によってはシダルテイへの攻撃を止めてまでどうにかしなきゃならない。
見方によってはシダルテイに有利となる出来事であると見ることができる。
偶然だと考えてもいいのだけど、どうしてもただの偶然には思えない。
「会議は状況が分かるまで延期とする。各自いつでも動けるように備えておいてくれ」
どの道魔物の状況が分かるまでは動くことができない。
シダルケイは行っていた会議をひとまず解散することとした。
ーーーーー
「シダルケイさん」
「ああ、恩人様」
「……その呼び方やめませんか?」
シダルケイが恩人様と呼ぶので他の人もジケことを恩人様なんて呼ぶ。
少し呼ばれるだけならいいのだけど毎回恩人様と呼ばれるのはちょっと居心地が悪い。
「恩人様は恩人様なのですがお嫌でしたら改めます。ジケ様でよろしいですか?」
「まあ……それで」
様も別にいらないけれどそう呼ばれることもあるし恩人様よりはいくらかいい。
「今日はなんのご用ですか?」
シダルケイは嫌な顔一つせずにジケに対応してくれる。
「話を聞いたんですけどアンデッドモンスターが現れたんですよね?」
「それは……お恥ずかしながらそうなのです」
本来なら無用な混乱を避けるためにアンデッドモンスターのことはしっかりと情報管理しておくべきである。
けれど終わりの見えていた戦争を邪魔するアンデッドモンスターの発生はあまりにも突発的で兵士たちの不満も高かった。
ジケの耳にも届くほどに不満を口にしてしまう兵士もいたのである。
兵士たちの管理が甘いと言われれば何も反論できないのだがそんなことを詰めに来たのではない。
「今アンデッドモンスターの状況は分かっているのですか?」
「現在調査中ですがスケルトンを中心とした魔物たちでかなりの数がいるようです。どこから現れたのかも不明ですが不思議とまとまって動いているようで、何をしたいのかは分かっていません」
そもそもスケルトンという魔物は知能がない。
それなのに未だに集団を維持しているのは異常に近い。
居場所や規模は分かりつつあるのだがどうしてまとまっていて、何を目的としているのかは把握できていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます