友、恩人
「私、シダルケイ・イェルガルはジケを永遠の友であると認めましょう。今はまだ王ではありませんが、私が王になった時にはフィオス商会、そしてジケ商会長は国の恩人であり友となることでしょう」
次の日にやや赤い目をしてジケのところを訪ねてきたシダルケイは深々と頭を下げた。
王家の証である指輪はそのものだけでも価値がありそうな見た目をしている。
しかし王家の証である指輪はイェルガルの王城下にある王家の霊廟の鍵となっていた。
指輪は指輪としての価値だけを持っているのではなかったのだ。
王家の者の手にあって初めて本来の価値を発揮する。
今は霊廟を開けることができずに致し方なく別の場所に安置されている代々の王族のものを霊廟に移す準備も行われていた。
王家の霊廟に入ることもできず、これまでの王の墓の世話もすることができなくていつしか再び霊廟を開くことはイェルガル王家の悲願になっていた。
そんな悲願を叶えてくれたジケは大恩人であった。
さらには今この状況で王家の証を持ってきたことに大きな意味もあった。
イェルガルは今まさに国を二分する内戦の真っ最中である。
王家の証は内戦において大きな一手となる可能性があった。
シダルケイにとっては二重に恩があることになる。
もし仮に王家の証が内戦の決定打となった時にはシダルケイはジケに対して一生の恩ができることとなるのだ。
「本物だと確認できてよかったです」
まさかそんなものだとは知らなかった。
けれど大の大人が涙するほどに大事なものであったので無事に返せてよかったとは思う。
恩を通り越して国の恩人とまで言われてしまった。
「今このような状況ではありますが恩人様のお願いとありましたならなんでもご協力いたします」
「ありがとうございます。じゃあみんな呼んで改めて話しましょうか」
下手するとこのことはイェルガルの内戦にも関わってくる可能性がある。
そんな気もジケの中にはあったのだった。
ーーーーー
バーヘンやウィリアなど今回の話に関わる人も加えてジケたちの要求を伝える。
何があったのか簡潔に話して悪魔教の追跡をしていることを説明した。
こんなところに逃げ込んだということはもしかしたら悪魔教がイェルガルに関わっているかもしれない。
あくまでも予想であるがジケの考えを伝えるとシダルケイもイライウスも複雑な表情を浮かべていた。
「まさかあいつが……」
「ですがあり得ない話ではないでしょう。最近シダルテイ側は押されていますからね。何に頼るか分かったものではありません」
「だとしたら恩人様から盗み出した宝石は資金源か何かでしょうか?」
「その可能性は大いにあり得ます」
その恩人様ってやつやめてほしいなとジケは目を細めていた。
「整理しますと悪魔教の追跡のために国内の通行許可が欲しいということでしたね」
「ですが……」
「今宝石があると思われる場所は我が弟の勢力域で乗り込んでいくのは危険……」
国内を自由に動き回ることはシダルケイとしても問題はない。
しかし問題はシダルテイとの内戦である。
魔塔の魔法使いたちが追跡魔法を元に今の場所を突き止めたところ、そこはシダルテイが支配している領域だったのである。
ジケたちがそこに行けばおそらくシダルテイによって捕まってしまうだろう。
シダルケイとしてもそんなことは許可できなかった。
こうなるとどうにか方法を考えねばならない。
「戦争を終わらせましょう」
簡単な方法ではないが内戦を終わらせるのが一番だということは誰も反論できない意見だった。
シダルケイが国内を掌握して協力してくれれば楽になる。
もし仮に悪魔教が弟であるシダルテイと協力しているならシダルテイを倒すことで向こうも後ろ盾を失う。
「しばらくここに留まりください。我々の方もより攻勢を強めます」
ジケのためだけではない。
王家の証があれば状況は一変する。
もはや過去の遺物ではあるけれども正当な王が持つ証として昔から王家の証は引き継がれてきた。
今の緊張が続く微妙な状況において王家の証は小さくとも戦いのバランスを傾ける力を持っていた。
未だに中立的な立場でフラフラとしている貴族や戦いの境界近くにあって仕方なくシダルテイ側についている勢力がシダルケイに味方する理由になるのだ。
王家の証を持っているシダルケイが王であるのでそちらにつくと主張ができる。
これは好機であるとシダルケイも考えていた。
「なんならこのまま私たちが恩人様のものを取り戻してみせましょう」
そういうことでジケたちはひとまずイェルガルに留まって状況を見守ることになったのである。
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