帰ってきた証1
逃してしまった連中もいるしまた襲撃があるかもしれないと身構えていたが、何事もなく首都まで辿り着くことができた。
ジケが機転を効かせてイティオラを助けに行こうとしたことやガデンの裏切りを看破したことで護衛の兵士たちの態度もいくらか柔らかくなった。
ガデンが裏切り者だったという衝撃はあったが見捨てられるはずだった二人を助けに行こうと動いたことでただ守られてふんぞり返っているだけの存在ではないと分かってもらえた。
いまだに兵士たちにとってジケの目的は不明だが、悪いことではないだろうという雰囲気が広まっている。
直接戦場になったことがないので首都は綺麗なものであったが、やはり長く続いた戦争のせいか活気は失われている。
町の中心部にあるお城はやや小ぶりではあるものの、外壁に金属が使われていたりして城の防御力は高そうだ。
ジケたちが城に近づくと門が開く。
城の敷地に入り、怪しむような目をした城の衛兵たちに見られながら城の前までやってきた。
「ようこそイェルガルへ。わざわざご足労ありがとうございます、ジケ商会長殿」
出迎えてくれたのは第一王子であるシダルケイ・イェルガルであった。
まさか王子自らが出てきて出迎えるなんてと護衛の兵士たちも驚きをなくせないでいる。
年齢としては三十に差し掛かるところと聞いていたけれど見た目は意外と若い。
「長旅お疲れでしょう。まずはお休みください」
シダルケイは身分を鼻にかけたような偉そうな人物ではない。
けれど王族としての誇りを持ち毅然としていてあまり下手に出るようなことをしない。
しかも集団の中で一番若いジケに対して非常に丁寧な態度を取っているというところも信じられないといった感じであった。
シダルケイだって王家の証を早く確認したいだろうにジケたちに気を遣って先に休ませてもらうことになった。
別にそんな疲れてはいないと思うのだけど早く話をしましょうと急かすことでもない。
お言葉に甘えてひとまず休むことにした。
ーーーーー
「改めて、シダルケイ・イェルガルです。お噂かねがねうかがっております」
次の日ジケはシダルケイに呼ばれた。
国に来いと呼び出すほどだから偉そうな人かと思っていたけどシダルケイの物腰は柔らかく、ジケに対しても態度は変わらない。
ジケたちのことを最大限もてなしてくれた感じもあって抱いていたイメージほどの悪い印象ではなかった。
「今回わざわざ我が国まで来ていただき感謝しております。状況が状況だけに自ら伺うことができなかったことご理解ください」
「それはいいのですが、どうして俺を呼んだのですか?」
王家の証というだけの話ならバーヘンに預けて持っていってもらってもよかった。
拾ったジケが持ってこなきゃならない理由なんてないだろうと思う。
「我々イェルガルが王家の証を失ってしまったことは周知の事実でなくとも知っている人は知っています」
本来ならば王家の証が失われたことは秘匿されるべきことである。
けれど王家の証を受け継いだ王子が行方不明になったことで王家の証も同時に失われたのだと勘のいい人なら察することができた。
「そのために王家の証を失ってから我々のことを利用しようと近づいてくる連中が現れました」
王家の証はイェルガル王家にとって非常に重要なものだった。
そのことを知った人の中には王家の証を持っている、たまたま見つけたなどと言って近づいてきた人もいた。
「そのために我々はルールを定めました」
結局どの人もウソで偽物の王家の証まで用意していたのだが、本物があるかもしれない以上確かめ続けるしかなかった。
しかし一時あまりにも偽物を持ってくる人が増えたためにイェルガル王家はルールを設けた。
「王家の証を持っている人は持っている人本人が持ってくること、そしてそれが偽物だった場合は相応の責任を負ってもらうことにしたのです」
相応の責任というのはケースバイケースである。
一般人がそれっぽいものを見つけたというのなら特に責任を問うことはしないが、明らかに悪意を持って騙そうとしている時には二度と城から出ることも出来なくなる。
ルールのおかげで不用意に王家の証を持っていると主張する人は減った。
「今回もルールに従ってジケ商会長殿にお越しいただいたのです」
例え戦時中だとしてもルールはルール。
ジケが拾ったのだと聞いたのでジケ本人に来てもらうことになったのである。
「そうなんですね……」
それなら事前に言ってほしいものだとジケは思った。
こんなところまで来て急に偽物だったら責任を取ってもらうなんて緊張が走る。
ジケとしては偽物を持ってきたつもりはないものの王家の証が本物かどうか真贋を判断することはない。
偽物だったら仕方ないぐらいに考えていたのに突然偽物の場合少しヤバいことになりそうな雰囲気になってしまった。
「例の物を、見せていただけますか?」
「……分かりました」
本物であってくれ。
そう思いながらジケは小さな木箱と一冊の本をシダルケイの前に差し出した。
「こちらはいいとして、これは?」
木箱の方は王家の証だろうとシダルケイにも分かる。
しかし本の方はなんだろうとジケを見る。
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