襲撃5

「……お、俺のロープは緩かったんだよ! だから跡も残らなかったんだ!」


 良い言い訳だと思う。

 納得できるし可能性としてあり得ない話じゃない。


「どうしてあんただけ跡も残らないほどに縄が緩かったんだ?」


「……た、たまたまだろ」


「どうしてイティオラだけ殺されたんだろう?」


「それは……」


「どうして……さっきからあんたは答えるのにそんなに言葉に詰まる必要があるんだ?」


 良い言い訳だった。

 しかし言葉に詰まりながら答えてしまうとどうにか納得するような答えを頭の中で模索していることがバレバレである。


「ま……待ってくれ、みんな」


 ジケに向けられていた視線がガデンに向いた。

 疑いの視線を向けられてガデンは一気に汗が噴き出して動揺を隠せないでいる。


「どうして……俺たちがここにいるとバレたんだろうね?」


 ジケはガデンに背中を向けた。

 あとはジケの問題じゃない。


「待ってくれ、カイトラス……」


「そういえばあんた叔父が西側に住んでいたな」


「ま、待て! あんなガキの言うこと信じるのか!」


「なら説明してみろ」


「な、何をだ?」


「イティオラが刺されて、お前が刺されなかった理由だ」


 確かに言われてみればおかしいと思った。

 邪魔な捕虜を殺してしまうという行動は理解できるのだが、イティオラだけが殺されたことに説明がつかない。


 二人とも殺されたというのなら理解ができる。

 なぜ片方は殺されることがなかったのか。


「それは……その……」


 スパイで相手の仲間だったから。

 手首に跡もないということは縛られもしなかったはず。


 そうなるとイティオラにスパイだったとバレたに違いない。

 だからガデンがイティオラを殺した。


 ジケの言ったことの方が汗だくで目を泳がせるガデンよりもはるかに説得力がある。


「くっ……あっ?」


「残念だよ、ガデン」


「う、腕がああああっ!」


 剣に手をかけたガデンの腕をカイトラスが一瞬で切り飛ばした。


「捕らえろ。そいつは裏切り者だ」


「くそっ!」


「俺たちのことをいつから売っていた? お前も、お前の家族もただじゃすまないと思え」


「か、家族は関係ない!」


「関係ないかは調査して決める」


「カイトラス! 長年一緒に……」


「もはや貴様はただの裏切り者だ」


 カイトラスはガデンの顔を殴りつけた。

 本当なら剣で切り倒してしまいたいけれどガデンがスパイとしてどんな活動をしていたのか知るまでは殺せない。


「なかなか大変だな……」


 最初にジケの方が疑われたことを考えるにガデンに対する信頼は確かなものだった。

 話を聞く限り長く一緒にいたようであるしショックは大きいだろう。


「感謝と謝罪を」


 カイトラスがジケの前で膝をついた。

 それを見て部下たちも同様に膝をつく。


「そんな」


「裏切り者に気づかないところでした。ジケ様のご慧眼には感服いたしました。感謝いたします」


「はぁ……」


 カイトラスが頭を下げみんなも頭を下げるとジケはどこか居心地が悪い気分だった。


「そしてあのような目を向けてしまったこと、ここに謝罪いたします」


 ガデンの肩を持ち、ジケが嘘つきかのような目を向けてしまった。

 結果的にはジケが正しく、失礼な行いをしてしまったのでカイトラスは謝罪した。


「別に怒っていないので大丈夫ですよ」


 こんな草原のど真ん中で大人に頭を下げられるのはなんだか複雑な気分になる。

 むしろ仲間に裏切られて心中穏やかではないのはカイトラスたちの方だろうとジケは思う。


「深い御心感謝します」


 何をしても褒められる。

 どうしたものかと思っていると逃げた連中を追っていた兵士たちが帰ってきた。


 リアーネの言うようにこの先の林に馬を隠していたらしい。

 相手は自分たちの痕跡が分からなくさせるために仲間たちの馬を放して走らせていて、どの方向に逃げたのか追跡が困難になっていた。


 なので追跡不可能として戻ってきたのだった。

 しかし捕らえた人もいるしガデンがスパイだと言うことも炙り出せた。


 ガデンがスパイとして無事だったことから相手も図り知れるというものである。

 ジケたちは道まで戻り、先に行った馬車と合流してまた首都に向けて移動を開始したのであった。

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