襲撃4

 普段のリアーネも遅いわけではないがケフベラスと一体になることでそうした速度面でも短所が解決している。

 なかなか面白い。


 真似してみたいけどフィオスに騎乗して戦うのは難しそうだなとは思う。

 むしろいつもフィオスがジケに抱きかかえられている。


 高速移動するデッカいフィオスに乗っかるジケ。

 そんな妄想をしてみて面白すぎるなと戦いの最中に笑いそうになってしまう。


「怪我人は?」


「こっちは大丈夫だ!」


「こちらも軽傷が何人か。移動に問題はありません」


 サクッと敵を倒し終えて状況を確認する。

 異端審問官も護衛の兵士も特に問題はなさそう。

 

 人数差もあって優位に戦うことができたので大きな怪我人もいなかった。

 ジケたちは追跡を再開する。

 

 身を隠す場所もない草原なので先を逃げる男たちのことはすぐに見つけられた。

 今度は何人かだけがそのまま逃げてほとんどの男たちがジケたちに襲いかかってきた。


 こうするなら最初から部隊を分けずにかかってくればいいのにとジケは思う。

 逃げ切れると思ったのか、もしかしたらジケたちの戦力を甘く見ていたのかもしれない。


「行くぞコラァ!」


 ケフベラスが一気に速度を上げて男たちの間に突っ込んでいく。

 過去ではリアーネは戦争の英雄に名前が上がるほどの人物だった。


 どんな戦いをしていたのかまでは聞き及んでいなかったけれどこんな感じで戦場を駆け抜けた時もあったのかもしれない。


「……んっ?」


 ジケは激しく動くリアーネの邪魔にならないように縮こまっていた。

 魔力感知を広げてリアーネが危なそうなら手助けしようと思っていたが特にリアーネが危ないこともなかった。


 先ほど戦った半分くらいの戦力でも敵わなかったのに同じような戦力で敵うはずもない。

 勢い盛んなリアーネを中心に敵を蹴散らして、最後に少なくなったところで何人か生捕りにした。


 逃げた残りは数が少なかったので護衛の兵士たちの半分ほどで追跡することになった。


「イティオラ……なんてことだ!」


 連れ去られたガデンとイティオラも置いて行かれていたので一応当初の目的は達成することができた。

 しかしその結末は悲しいもので連れ去られた二人のうちイティオラという若い兵士は混戦の最中で殺されてしまっていた。


「あいつら……追いつかれると分かるとイティオラのことを……」


 ガデンという中年の兵士は涙ながらにイティオラの亡骸を抱えている。

 周りにいる兵士も苦々しい顔でその様子を見ている。


「ふぅーん……」


「ジケ様? 何かありましたか?」


 その中で一人、ジケは冷めた目でガデンのことを見ているのにカイトラスは気がついた。


「よく殺しといてそんな顔できるなと思ってね」


「なっ……!」


 ジケの爆弾発言にその場にいた全員が驚く。


「何を言うんだ!」


 ガデンが顔を赤くしてジケに怒りの視線を向ける。

 他の兵士たちもジケよりガデンを信じているようで一気に冷たい視線がジケに突き刺さる。


「俺視たんだよ」


 ケフベラスの背中で揺られながら魔力感知を広げたジケは視てしまった。

 自由にされていたガデンがイティオラの腹をナイフで指すところを。


「俺が裏切り者だとでもいうのか!」


 周りの兵士たちはガデンが裏切るわけがないと小さく口にしてジケを睨み付ける。


「証拠でもあるのか! 俺がイティオラを刺したっていう証拠が!」


「待つんだ! ジケ様、そのお話は本当なのですか?」


 カイトラスがジケとガデンの間に入る。


「俺が嘘をつく必要があると思う?」


「さあな! こんなところにくる怪しいやつ、嘘ぐらいつくかもしれねぇ」


「ガデン! 静かにしていろ!」


「でも……」


「証拠もなく仲間を疑うことはできません。申し訳ありませんがこれ以上は……」


「刺したってことを証明はできないけど疑うには十分なことがあるよ」


 護衛の兵士たちはシダルケイの配下として共に戦ってきた仲間である。

 裏切り者がいるだなんて考え難く、ジケの言葉に不満は非常に高かった。


 ジケの発言が仮に本当だとしても証明のしようもなく、今はイティオラが殺されたことで兵士たちも元々不満だった護衛任務にさらに不満が募っている。

 カイトラスはここはひとまず会話を切り上げようとしたのだけどジケは引かなかった。


「疑うに足る証拠でも……?」


「その二人を見てごらんよ」


「俺とイティオラがどうしたっていうんだ?」


「戦いが終わった時イティオラの手は縛られてた」


 今は縄を切られているけれど戦いが終わった時にはイティオラの手は縛られた状態で倒れていた。

 おそらく捕虜としたイティオラが暴れないようにしたのだろう。


「だからどうした?」


「あんたは戦いが終わった時に手を縛られていなかったよね?」


「……戦いの隙を見て縄を自分で切ったんだ」


「イティオラの手首を見て。赤黒くなってる。相当キツく縛られたんだね。……ガデンさん? どうして手首を隠したの?」


「それは……」


 別に拘束状態をどうにか抜け出したというのも納得はできる。

 しかしイティオラの状態を見ればしっかりと拘束されていたことは間違いない。


 ならばガデンにも同様の痕跡が残っていても不思議ではないのだ。

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