襲撃2
改めてジケは魔力感知を広げる。
こうすれば馬車の中にいながら外の様子も窺える。
襲撃してきた人数は思ったよりも多そうで、より集中して範囲を広げてみると前後にいた護衛の兵士たちの方にも襲撃があった。
ただやはり狙いは中央に位置していたジケたちのようで中央に来ている敵の数が一番多い。
「どうやら……」
「何、馬車の中にこもって……」
馬車を守るみんなの隙をついて一人の男が中に入ってこようとした。
しかしジケは冷静に素早く剣を抜くと男の胸を貫いた。
「狙っているのは俺たちのようだな」
グッと男の腹を蹴って剣を抜く。
「私たちが来たことは秘密なんだよね?」
フィオスが馬車の中に落ちてしまった血を綺麗に掃除してくれる。
「うーん……ちょっと微妙なところだよな」
「どういうこと?」
「なんて言うのかな……俺たちが来た目的は秘密にされてると思うけど俺たちのことそのものは完全に秘密じゃないってところかな?」
護衛たちもジケが来た目的を知らされていない。
つまりはジケが王家の証を持っているということは秘密にされていることになる。
ただジケたちが来るということそのものについてはどうだろうか。
結構な大所帯での移動、それにしっかりとした護衛となると当然で周りから目立ってしまう。
イェルガル国外ならともかく国内を移動していては隠しようもない。
だから秘密にしていても調べてしまえばジケたちのことを見つけられはするだろう。
そのことから逆算して考えるとジケたちが狙いではあるものの、ジケが何をしようとして来ているのか把握して襲っているのではなく、こんな状況でシダルケイが招き入れた怪しい連中だから襲った。
という可能性が高い。
中でもジケの馬車は真ん中で守られているし何かがあると思われても当然である。
「ただこっちの方が強そうだ」
改めて魔力感知を広げる。
全体的な人数もジケたちの方が多く、護衛に加えて異端審問官と魔塔の魔法使いまでいる。
負ける道理がない。
馬車の中で守られているつもりはないけれど出ていかなくても普通に戦いは終わってしまいそうだった。
「撤退だ!」
ジケとエニも出ればより早く終わるだろうと思って馬車から出ようとしたタイミングで敵が撤退を始めた。
状況が不利なことを悟ったようである。
「ちぇっ、早いな……」
せっかく戦おうと思ったのに相手の行動は早くて森の中に散らばるように逃げていく。
「追いかけるな! 我々の目的は護衛である」
逃げ足の速さはジケたちがわざわざ追いかけてこないというところにもあるのかもしれない。
追跡されるならしんがりを用意してしっかりと痕跡を消したりする必要があるけれど追いかけてこないのならただ逃げればいいのだから。
「みんなは平気?」
怪我の状況などを確認する。
死んでいなければエニがいるので治すこともできる。
「こちらは大丈夫です」
「むしろ戦い足りないぐらいだな」
「こちらにも怪我人はいません」
ユディットたちジケの護衛を始めとして異端審問官も特に問題なし。
「私たちも大丈夫です」
ヘギウス商会の方も大きな怪我をした人はいなかった。
シュオユンは無言で剣についた血を拭っている。
魔力感知で見ていたけれどシュオユンは話に聞いていた通りに強かった。
やや長めの片刃剣を振り回してバッタバッタと相手を切り倒していた。
さすがはヘギウス商会を守っている人だと思う。
「お怪我はありませんでしたか?」
カイトラスがジケたちの状況を確認に来た。
イェルガルの兵士たちもしっかりと戦ってくれて強かったし、カイトラスが素早く指示を飛ばしていたので急な襲撃にも的確に対応して動いていた。
「ええ、こちらは大丈夫です」
「隊長! ガデンとイティオラがいません! 連れ去られたようです」
「なんだと?」
特に損害にもないと思ったのだがそう簡単にはいかなかった。
シダルケイから送られた護衛のうちの二人の姿が見えなくなっていた。
死体もないので戦闘中に誘拐されたものだと思われた。
おそらく情報を聞き出すために連れ去られたのだ。
「……追跡はしない」
「しかし!」
「我々の任務は護衛だ」
今から追いかければまだ仲間を助けられるかもしれない。
けれど相手の戦力を見た時に護衛となっている兵力を全て差し向けなきゃいけない。
まだ相手が襲ってくるかもしれないのに護衛対象を放っておいて仲間を助けに行くことはできない。
それに何があっても絶対に連れてこいと命令を受けている。
カイトラスにとっても苦渋の決断だった。
「それでは先に参りましょう」
「……次の町までどれぐらいですか?」
「次ですか? 次はこの森を抜ければすぐですが……」
「護衛対象にはついていかなきゃいけないですよね?」
「そうですが……」
ジケとしても仲間を見捨てるなんてことはさせたくない。
「ふふふ……やはり面白いことを考える」
近くで話を聞いていたバルダーはジケが何を考えているのか分かったようでニヤリと笑った。
「それじゃあ追いかけましょう。みなさんは護衛対象が勝手に追いかけちゃったということで」
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