封鎖された国へ2
「どーせ楽観的に危なくなんてならないだろって思ってるんでしょ?」
「うぅ……」
まるで心の中を見透かされたよう。
「フィオスもたまにはご主人様止めてあげなよ?」
エニはジケの膝の上にいるフィオスもつっつく。
何を考えているのかは知らないけれどフィオスがジケを止めることはなさそうだとエニは思う。
きっとどこまでもついていってどんな状況でも乗り越えようとするのだ。
「うりうり」
エニの気持ちを知ってか知らずかつつかれてフィオスは嬉しそうに体を震わせている。
「回り込んで入らなきゃいけないってのもなんだか納得いかない」
「しょうがないだろ?」
イェルガルまで最短の道を行くとちょうど国の北側真ん中を入ることになる。
しかしイェルガルの内戦は国を大きく東西に二分した形で行われているために北側の方から入ってしまうと戦いの前線に近くなってしまうのだ。
だからジケたちは大きく迂回して東側からイェルガルに入る予定であった。
前線付近を通過してしまうともしかしたら襲撃を受けたり捕まってしまう可能性もあるので安全のためには仕方ない。
「で、今回会うのは王子様だっけ?」
「そう。二人いる王子のうち兄の方でシダルケイ・イェルガルという人だよ」
弟の方はシダルテイといって、兄のシダルケイは国の東側を支配していて、弟のシダルテイは西側を支配している。
東側には首都を含めた大きな都市があって政治的な中心をシダルケイが握っている。
対して西側には鉱山がいくつかあって財政的なところをシダルテイの方が握っているのである。
今回会うのは兄のシダルケイであるためにイェルガルの東側から入ろうというのだ。
「今のところはシダルケイが優位らしいけどね」
行くことになったのでイェルガルについて調べてみた。
鎖国しているせいか情報は少ないのだけどシダルケイとシダルテイの勢力は拮抗していてずっと押し合いが続いている。
明確な決め手もないために内戦が長引いていて前線が行ったり来たりしている。
現在はシダルケイの方が押しているようでもう少しだけ奮起するような一手があればと考えているようだ。
ジケが持つ王家の証がシダルケイの元に渡れば戦況はほとんど確定的になるだろう。
しかし過去ではシダルケイはシダルテイに負けて国は最悪の状況になる。
何があったんだろうかとジケは首を傾げた。
「まあ何があるのが分からないのが戦争だしな」
悪魔教に逃げられてはいけないので少しペースを早めつつイェルガルに向かった。
意外と大所帯になってしまったので速く移動するのも楽ではない。
道を辿ってイェルガルの近くまで来て、そこから迂回するように東側に向かっていった。
道の都合で別の国を通っていくことになるけど仕方ない。
ぞろぞろと人を連れているために多少警戒されはしたものの問題なくイェルガルの東側にまで到着することができた。
「おおっ?」
国境近くまでやってきたジケたちを待ち受けていたのは兵士だった。
「フィオス商会様御一行ですね。私カイトラスと申します。シダルケイ様のご命令により道中の護衛と案内に参りました」
カイトラスと名乗った三十代ぐらいだろう騎士はジケたちを護衛するつもりだという。
内戦中の国を行く、それも相手にとって重要な王家の証を持っているのだから理解もできる。
「ふん……どうせ見張るためだろうな」
ちゃんと護衛としての意味もあるだろう。
しかしカイトラスが直接言わなかったけれどまた別の目的があることは明白である。
内戦中で緊張の高い状況の中で好き勝手に動かれると困る。
つまりは監視的な役割も兵士たちにはあるのだ。
それを否定するつもりも批判するつもりもない。
守ってくれていることは確かだし、相手の事情も理解できる。
「ただ歓迎するような雰囲気もないしな……」
警戒されて監視されるのはしょうがないかもしれない。
しかしジケは内戦を終わらせるかもしれない大きな一手を持ってきたというのに少しも歓迎した雰囲気がない。
旗でも持って歓迎してくれとは言わないがもうちょっと何かあってもいいんじゃないとは思う。
「あいつらは知らないのかもな」
「……知らない、ですか?」
「お前が何をやろうとしているかだ。こんな状況だから秘密の保持も苦労する。敵味方が入り混じるのだから秘密にしたいことがあれば誰にも言わない方が楽でいい」
王家の証を持っているということはシダルケイにとって大きな話である。
もしシダルテイにバレてしまうと狙ってくる可能性は高い。
本来ならばどうしてジケたちを護衛するのか情報を周知しつつ秘密にするものだが内戦中ということでどこから情報が漏れるのかも分からない。
結果的に情報を伝えないということで秘密を守っていたとしても不思議なことはない。
「護衛だからとあまり気をぬくのはよくないだろうな」
「……そうですね」
「はぁ……また面倒そう」
「お前のことは俺が守るからさ」
「あんがと……でも危ないことしないのが一番だからね」
「それは……そうだな」
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