封鎖された国へ1
「さすがヘギウス商会ですね」
「どうにかツテを辿って繋げましたよ」
ある日バーヘンがジケのところを訪ねてきた。
どうにかして内戦が起きていて閉鎖された国であるイェルガルの内部と話をつなげたらしい。
かなり苦労したようだが、なんとヘギウス商会は人を伝っていってイェルガルの王位を争う王子の一人にまで話を通したのだった。
その相手も弟の方ではなく兄の方である。
「それで、俺に直接持ってこいと言うのですね?」
「ええ……どうやら拾った本人でないとダメだとか」
ジケはイェルガルに対して交渉のカードを一つ持っていた。
それはイェルガル王家の王の証である指輪をジケは所有しているのである。
以前海に面した港湾都市であるボージェナルという都市に行った時に悪魔教の事件に巻き込まれて洞窟に迷い込んだ。
その時に洞窟の中に打ち上げられた古い船を見つけた。
何があるのかと漁ってみるとその船はイェルガル王国の王太子ゾーディッグ・イェルガルという人が乗っていた船だった。
魔物に追われているうちに座礁してしまったようで、そのまま亡くなってしまったのである。
次期王様だったようでゾーディッグは王家の証である指輪を持っていた。
内戦状態だったために指輪を返す目処が立たなくて大切に保管していたのだけど、今回悪魔教がイェルガルに逃げ込んだために国内に入るための交渉のカードとして指輪のことを持ち出してみることにしたのだ。
ヘギウス商会がどうにか王座を争う王子まで話を持っていったのであるが、王子側からも条件が出された。
国内へ入ることを許可するが指輪を拾ったジケが直接もってこいというのである。
「なぜなのかは分かりませんが……こちらの条件だけは私どもではなんともできませんので」
経済的な支援なども条件にはあったがヘギウス商会でなんとかできるようなものだった。
だけどジケが来いというものはヘギウス商会でもなんともできない。
「無理でしたらどうにならないかと交渉してみますが……」
「うーん……いや、その条件飲んでみましょう」
どうしてジケに持って来させるのかは分からない。
けれど向こうには向こうの事情があるのだろう。
長々と交渉している間に悪魔教が逃げてしまうかもしれない。
あるいは盗み出したピンクダイヤモンドを使って何かをしでかすかもしれない。
時間をかけている余裕なんてないのだ。
「俺が向かいます」
「……何もかもご迷惑をおかけして」
「悪いのは悪魔教ですよ。人の命使って魔法無効化するなんて対策できませんからね」
きっと悪魔教相手じゃなかったらピンクダイヤモンドを諦めてるかもしれない。
悪魔教が持っていったから悪用されたくなくてジケもどこまでも追いかけるつもりだった。
「すぐに準備しましょう。行動は早い方がいい」
ーーーーー
向かうのは内戦で荒れた国。
どんな危険が待ち受けているか分からない。
今回はフルメンバーで挑むことにした。
護衛のユディット、リアーネ、ニノサンを始めとしてエニもついてきてくれるし、相手が悪魔教だと知ったグルゼイも同行することになった。
異端審問官のウィリアやバルダーも一緒であるし、ヘギウス商会も信頼ができて腕の立つ人を連れてきていた。
中でもシュオユンというヒゲの男性はかなりの手練れらしく、警備部門でもトップクラスの実力がある人であった。
普段は商会の方を守っているのだけど今回特別にこちらの方に同行することになったのだった。
これだけの人がいれば何かが起きてもイェルガルの脱出ぐらいはできそうだと頼もしく感じられる。
「イェルガルには職人も多くいるらしいな」
イェルガルには大きな鉱山があって金属が採れる。
ということはそれを加工するということも盛んであり、そのために多くの職人も集まっている。
以前ジケはアダマンタイトをクシの形に加工するということをフィオスの力を借りて成し遂げた。
普通の職人ではアダマンタイトを細かな形に加工するのは難しいから自力でなんとかしたのである。
もしどうしても加工が難しく、それでもクシを作ろうと思うのならばイェルガルにいる名工を探しただろう。
現実的には内戦状態でどうしようないのでフィオスで無理だったら諦めることにはなっていたと思うけれども。
「金属加工の職人も多いけど他の職人も意外と多く……」
「まーた危ないところに行こうとしてるの分かってんの?」
「うぐっ、分かってます……」
隣に座るエニの指がジケの頬に突き刺さる。
エニはなんやかんやとジケが危ないところに行くならついていくと一緒に来てくれる。
ちなみにタミとケリはお留守番になるのでリンデランにお願いしてヘギウス家で預かってもらった。
ヘギウス商会も関わることだしリンデランもタミとケリが好きだし二つ返事で預かってくれた。
ただまた危ないことでもするんですか? と非常に疑われたのは少し心外だったなとジケは思う。
まだ危ないか、危なくないかはちょっと分からない。
危なくない可能性だって十分にあるのだ。
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