記憶に薄い国
イェルガルという国がある。
ジケたちが暮らす国の南側にあって一般に南方諸国などと呼ばれる国の一つである。
大きな鉄鉱山が国内にいくつかあって鉄の国として知られている。
しかし今イェルガルと交流を持っている国は多くない。
なぜならイェルガルは現在内戦中なためである。
兄と弟が王座を争っているなどというどこかで聞いたことがある戦争が起きているのだが、どこか聞いた話とイェルガルの話はちゃんと違う。
どこかの話では王弟がいきなり反乱を起こして内戦が勃発したのだがイェルガルの場合は最初から兄と弟が争っていた。
というのも先代の王が正当な後継者を指名する前に病気で急死してしまった。
なのでどちらが王になるかで国は二分されて長く続く内戦状態となっているのだ。
そんな状態のためなのかジケも過去でイェルガルについてあまり聞いた覚えがない。
ただイェルガルがどうなったのかうっすらと記憶にある。
王弟が他の国の力を借りて勝利したのだけど、結局衰え切ったイェルガルでは力を借りた国と対等な関係を築くことができずになし崩し的に属国にされてしまった。
その経緯も、その後どうなったのかも全く覚えていないがあまり良い結末を迎えていないだろうことは予想に難くない。
「イェルガル、ですか……」
「そうなんです。なかなか厄介なところに逃げ込んだものです……」
バーヘンはダンデムズたちの力を借りてピンクダイヤモンドの行方を追っていた。
相手は悪魔教であるし、魔法を封じてくる特殊な魔道具を持っているので異端審問官も協力していた。
仲間がいなくなったせいか相手の移動速度は速く、迷いがないように真っ直ぐと移動を続けていた。
そして相手が逃げ込んだ先がイェルガルだったのである。
いかにヘギウス商会や魔塔といえど内戦のために国境を封鎖している国に簡単に立ち入ることはできない。
相手も下手に身動きが取れないのか国境近くの町に留まっているらしい。
ただ入国の許可が降りなくてバーヘンは一度報告に戻ってきていた。
ヘギウス商会だけでなくジケにも直接追跡の状況を伝えに来ている。
「イェルガルが目的地なのか、それとも私たちの追跡を逃れるために逃げ込んだのかは判然としません。ですがここまできて私たちも諦めるつもりはなく、どうにか手を尽くしてイェルガル国内には入れないか試みてみます」
長引く内戦によって国力が衰えたイェルガルは他国のことを警戒して半ば鎖国状態にあった。
一部の商人以外はイェルガルを出ることも入ることも許さないのだ。
ヘギウス商会はイェルガルと取引がないので取引目的でも中に入ることができないのである。
「……一つ当てがあります」
「当て、ですか?」
「もしかしたらイェルガルに入れるかもしれません。うまくいけば協力だって得られるかも」
「本当ですか?」
「可能性があるってぐらいですけど」
「可能性があるのなら挑んでみましょう!」
バーヘンの目に希望が宿る。
やるだけやってみると言いながら勝ち目のない勝負だったのだが、ジケが可能性があるというのなら少しでも期待できるということだろうとバーヘンは思う。
「……イェルガルにツテなんてないですよね?」
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