悪魔の所業1

 フクリサと秤を持った男は逃げ出してしまい、他の連中は制圧されるか、倒された。


「ありがとうございました」


「……感謝する」


「おじいさん大丈夫?」


「…………大丈夫だ」


 ロクブはなんとかエニの治療が間に合った。

 ギリギリのところで出血が多かったので顔は青くなっているけれど安静にしていれば回復するだろう。


 ただ助けられなかった命もある。

 ダンデムズが連れてきた魔法使いの一人は治療が間に合わなかった。


 そのことにダンデムズはすっかり気落ちしてしまって大人しくなった。

 他の人には尊大な態度を取るが身内のことは非常に大事に思う人で、自分でなんとかできると勝手な行動をとって死なせてしまったことを深く反省している。


 もし仮に異端審問官に連絡をして一緒に行っていれば誰かが死ぬことを防げたかもしれない。

 魔法を封じてくる手段があるだなんて思いもしなかっただろうが万が一のことを考えるべきだった。


「お前さんらには助けられたな」


 異端審問官たちが中の捜索を行なっている間にジケたちはダンデムズたちと外で待っていた。


「助けたのは……」


「いいや、ワシへの剣を防いでくれたお前さんだ」


 主に戦ってくれたのは異端審問官だろうと言おうとしたが、ちゃんとジケが攻撃を防いでくれたことをダンデムズは分かっていた。


「そちらのお嬢さんも治療ありがとう」


「あ、うん……一人ダメだったけど」


「それはお嬢さんじゃない。自身の力を過信しすぎたワシが悪いのだ」


 最初の態度はどこへ行ったのだというぐらいにしおらしくなってしまった。

 当然ジケたちに感謝しているだけでなく異端審問官にも感謝はしている。


 ただやはり目の前で助けてくれたり治療してくれたジケやエニには大きく感謝の気持ちがあった。


「これを受け取ってほしい」


「これはなんですか?」


 ダンデムズは懐から2枚の金属の札を取り出した。

 ジケの手ほどの大きさがある札で不思議な模様が刻んである。


「師匠、それは……」


「これはお前さんらがワシの恩人だという証だ」


「ダンデムズさんの証ですか?」


「そうだ。魔塔に来ることがあったらこれを見せるといい。ワシのできる範囲のことならなんでも魔塔が力になってくれる。ワシ自身も喜んでお前さんらに恩を返そう」


「いいんですか、このようなものもらって?」


 ダンデムズは魔塔における長老という偉い立場の人である。

 そんなダンデムズのできる範囲で魔塔が協力してくれるということはほとんどのお願いを聞いてもらえるのと変わりがない。


「ワシとワシの弟子の命を救ってもらったのだ、これぐらいでは足りないぐらいじゃ。受け取ってくれ。老いぼれにこれぐらいだから」


「もらってあげようよ」


「……分かりました」


 一度エニと顔を見合わせた。

 もうしょんぼりしているのにここで受け取りを拒否したらもっとしょんぼりとしてしまいそう。


 命を助けた代償として考えるなら過ぎたものでもない。

 魔塔に行くことがあるのかは不明であるけれどもらえるものならもらっておこう。


 ダンデムズの札を受け取ってエニに一枚渡す。


「ありがとうございます」


「うむ」


 エニが札を手に頭を下げるとダンデムズは寂しげに笑った。


「それにしても君はなかなか強い魔力を持っているな。魔塔に興味はないか?」


 エニはダンデムズよりも強く苦しんでいた。

 ということは持っている魔力の量だけを見たらエニは魔塔の長老たるダンデムズよりも多いということになる。


「……興味がないといえば嘘になります」


「その返事では色良いものではなさそうだな」


「私は……やることがあるので」


 エニはチラリとジケを見た。

 やることが何かと聞かれると少しだけ困る。


 明確に何かやることがあるというよりも誰かのためにそばにいる必要があるのだ。

 その誰かさんはやることがあるのかととぼけた顔をしているなとエニは少し目を細めた。


「そうか。気が変わったらいつでも連絡をくれるといい」


「はい、ありがとうございます」


「礼儀正しくていい子だ」


 大神殿での仕事でお年寄りの扱いにも慣れているエニはさっとダンデムズに合わせた態度で接している。

 笑顔を浮かべて折り目正しく礼をするエニをダンデムズは気に入っていた。


 魔力も強いし是非とも魔塔に連れて帰りたいぐらい。

 こうした事件がなければ半ば無理にでも誘っていたかもしれない。


 しかし今はエニは恩人である。

 意にそぐわないことをするつもりはなかった。


「それにしてもあれはなんだったんですか?」


 あの変な秤は色々なものを狂わせた。

 結局秤を持った男は逃げられてしまったし一体なんだったのか疑問のままだった。


「あれは悪魔の魔道具じゃろうな。文字通り悪魔が作った魔道具に違いない」


「悪魔が作った……?」


「魔道具と一言に言っても色々とある。人が作ったもの、神が遣わしたもの、ダンジョンから見つかったものなんかがある」


 エニが持っている杖はアカデミーにあるダンジョンをクリアしてエスタルから報酬としてもらったもので、持ち主の力を補助してくれる効果を持つ魔道具である。

 魔物の素材を使って人が作り上げた。


 先日王城で開かれた王子生誕のパーティーで見た杯は神が遣わした魔道具である。

 どう作られたのかも分からず、強力な効果を持っているものになる。


 他にもダンジョンの中で見つかる魔道具というものもある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る