魔法使いの天敵5
それを遊んでいると言われるとフクリサも面白い気分ではない。
「これ以上遊んでいると言われると俺があいつを切り殺してしまいそうだ。悪いが勝負を決めさせてもらうぞ!」
「ぐっ!」
フクリサが本気になった。
一撃が大きく重たくなって、ジケは防ぐたびに後ろに下がらされる。
「まだ諦めていない目をしているな!」
いつの間にか壁際まで追い詰められたジケであったがその目は反撃の機会をうかがっている。
それに妙な気味の悪さを感じながらもフクリサは剣を振り下ろした。
「……あなた、魔力がありませんね?」
ジケは剣を振り上げた。
ジケの剣とフクリサの剣がぶつかって、フクリサの剣が半分から折れて飛んでいった。
「なんだと!?」
フクリサの目が驚きに見開かれた。
ジケは押されながらフクリサのことを観察していた。
みんなが苦しんでいる中で全く影響を受けていないのにはなんの理由があるのか見抜こうとしたのだ。
最初は違和感だった。
フクリサを見ていて変な感じがしていたのだが戦いながら観察を続けて感じていた違和感の正体に気がついた。
フクリサは魔力を発していなかったのである。
魔法が使えない状況であるが魔力がなくなったわけではない。
体から放たれた魔力はすぐさま拡散して消えてしまうから結果的に魔力が無いようになっているだけで、魔力感知ができるジケがよくみると魔力はあるのだ。
攻撃する瞬間など特に力が入る場面では自然と体から魔力が出る。
普段から魔力を抑える訓練をしていても攻撃の瞬間の魔力を抑えるのは難しい。
フクリサのように激しく攻め立てれば魔力は出ていて当然なのだが、ジケがいくら集中してもフクリサの体から魔力は放たれなかった。
つまりフクリサは魔力をほとんど持っていないということになる。
魔力を多く持つエニやダンデムズが強く苦しみ、魔力をあまり持たないジケやフクリサは影響を受けていないことをジケは察した。
「確かに魔力は持っちゃいないが……これどうやった?」
ジケの追撃をかわして下がったフクリサは怪訝そうな顔をして折れた剣を見た。
剣なんてそうそう折れるものではない。
「魔力が込められていない剣と魔力を込めてまとった剣がまともにぶつかればこうなるさ」
「……なに? そんなことできるはずがない」
フクリサも秤の効果はある程度理解している。
魔力は散ってしまって魔力量があるやつほど使い物にならなくなる。
剣の中に魔力を込めるだけなら魔力は散らないがそれだけでは十分な効力は発揮せず、自分以外のものに魔力を込めればあっという間に外に魔力は放出されてしまう。
魔力をまとうなんて今の状況では不可能なはずだった。
「できないことじゃないさ!」
厳密には不可能なことでもない。
今度はジケの方から切り掛かり、フクリサは半分になった剣でどうにかガードする。
ジケが習うグルゼイの剣は魔力量が少なくともできる刹那の技である。
繊細な魔力のコントロールによって瞬間的に魔力を発して鋭い斬撃を残してあらゆるものを切り裂くことを可能にしている。
今の状況はものすごい早さで魔力が散ってしまうというだけで魔力そのものがなくなったわけではない。
ジケはほんの一瞬を狙った。
剣と剣がぶつかるその一瞬を狙って剣に込めた魔力を放ち刃にまとわせたのである。
剣が魔力をまとえた時間は僅かだっただろう。
しかしそれで十分だった。
全く魔力も込められていない剣にジケの剣の刃は少しだけ食い込んだ。
少しでも食い込めば後はそのままフクリサの剣を折るように切り裂いてしまえた。
「どうやったのかは知らんがただのガキじゃないな!」
ジケの剣が腕をかすめてフクリサはふんと笑った。
明らかに押されている場面でも笑えるなんて何か秘策でもあるのかとジケは警戒しつつ攻撃する。
「そろそろ潮時だな!」
「なにを!」
一度大きく下がったフクリサは折れた剣をジケに投げつけた。
「あっ!」
「勝ち負けってのは生きてるやつが偉いんだよ、覚えとけ!」
剣を盾で防いだジケが見たのはフクリサが背中をむけて逃げていくところだった。
衝撃の行動にジケが思わず固まっている間にフクリサは窓を突き破って建物の外に飛び出していった。
「そうだ、あいつは…………いない!」
もう追いかけようもない。
逃げられてしまったのなら仕方ないからと秤の男の方を見たらそちらの方もいなくなっていた。
周りを見ても秤の男はいない。
不利な状況を察して一足早く逃げ出していたのである。
「むっ、体の調子が戻ってきたな!」
秤の男がいなくなったからか魔力が戻ってきた。
「エニ、治してやってくれ!」
ひとまず厄介な状況は乗り越えた。
魔力が戻ってくればバルダーたち異端審問官にも勢いが出て一気に形勢が有利になる。
ジケは状況を素早く確認した。
ジケが戦わずとも勝敗は決したようなものなのでそれ以外に目を向けた。
そこでジケたちがくる前にすでに切り倒されていたロクブを始めとする魔法使いたちが目に入った。
エニに攻撃に参加してもらうよりも魔法使いたちを治してもらう方が優先だと判断した。
「……ワシのせいだ」
魔力が戻ってきてもダンデムズは血を流して倒れる弟子たちを見て動かなかった。
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