魔法使いの天敵4
「くっ……このような方法だったとは……」
知らぬ強力な魔法ではなく世の理から外れた悪魔のような魔道具だったとは思いもしなかった。
どうやって金庫の魔法を無効化したのかは理解したが非常にあくどいやり方にダンデムズは顔をしかめる。
「これはあまり良くありませんね。均衡が崩れています」
異端審問官が来たことにより形勢が傾いた。
秤を持った男は目を細め今一度秤を掲げた。
「うぎゃっ!?」
「ウィリア! 大丈夫か!」
「だ、大丈夫です!」
ウィリアが戦っていた相手が突然血を噴き出して倒れた。
血を浴びかけたウィリアは奇妙な悲鳴を上げながらなんとか血を回避した。
「むっ、いかん!」
代償が支払われた。
秤の傾きがゆっくりと大きくなりダンデムズは危険を感じ取った。
けれど魔法を使えないダンデムズにはどうすることもできない。
「うっ!」
「ぐっ……!」
「エニ、ダンデムズさん!」
秤の傾きが止まった後すぐに影響が現れた。
急にエニとダンデムズが苦しみ出した。
「みんな……どうなってるんだ!」
周りを見るとみんな同じように苦しんでいた。
バルダーやウィリアも苦しそうな顔をしていてスカーアモ商会の男たちの攻撃をなんとか防いでいる。
見るに苦しむのにも程度の差があることにジケは気がついた。
エニやダンデムズを始めとした魔法使いたちは脂汗をかくほどに苦しいようで、次に異端審問官たちはそこまでいかないようだが苦しそう。
対してスカーアモ商会の男たちは少しだけ苦しそうにしているけれど影響は大きくないように見えた。
さらにはジケ自身はほとんど影響がない。
「魔力が体から勝手に抜けていく……」
「大丈夫そうなのか?」
「分かんない……でも苦しくて……」
体の奥底にある魔力が無理矢理抜き出されるような感覚がある。
同時に魔力が抜けていくことに苦痛を感じていた。
バルダーですら表現しようもない苦痛を前にして動きが鈍っている。
優位だった状況がほとんど五分になってしまった。
「あいつ……」
何がどうなっているのかは分からない。
けれどエニを苦しめているのが秤のせいであることだけは確かだ。
苦しむエニのそばを離れるのは心配であるけれどこの状況を打開するためには秤を持った男を倒すしかないとジケは思った。
ジケは床を蹴って走り出す。
それなりに戦えているところは見ているはずなのにやはり子供だからだろうか、ジケが動き出しても警戒する人はいなかった。
戦いの隙間を縫って走り抜け、男の目の前に飛び出す。
「よく分からないけどそれ止めてもらおうか!」
エニたちみんなが苦しむだけでなく秤の効果が無くなればダンデムズも戦えるようになり一気にジケたちの勝利が見える。
「フクリサ!」
「起きてたの分かってたのか」
迫り来るジケと僅かに眉をひそめた秤を持った男の間に突然別の男が降ってきた。
お屋敷は入って正面に大きな階段があって吹き抜けになっている。
どうやら一階のエントランスホールにいた人が全員ではなかったらしく二階から人が飛び降りてきたようだった。
「邪魔だ!」
ジケは飛び降りてきた男を切り捨てようと剣を振り下ろす。
「血気盛んなガキだな!」
飛び降りてきた男は剣を抜くとジケの攻撃を防いで押し返した。
「フクリサ、さっさと倒してしまいなさい」
「俺としてはこの状況楽しみたいがな」
「いいから」
「ふん、お前には分からないだろうぜ」
フクリサと呼ばれた男は全身よく鍛えられた体をしている。
肌は日に焼けて薄黒く、自信に満ちた目でジケのことを見ている。
簡単に倒せる相手ではなく、強い相手であるとジケは感じていた。
「ただのガキじゃないな」
盾にしたフィオスを前に出して構えるジケの姿を見て遊びでこの場にいるのではないとフクリサは笑う。
容赦なくフクリサを切り捨てようとした時点である程度ジケの実力は察していた。
基本的で隙がないジケの構えを見ればフクリサも油断はできないなと思った。
「それにエクリスケイルの影響を受けないということはお前も俺に近いようだな」
「……どういうことだ?」
「ふっ、教えてやらないよ!」
フクリサは一気にジケに切りかかった。
「重い!」
体つきは見せかけじゃない。
フクリサの攻撃を盾で受けたジケは顔を歪める。
盾越しに受ける衝撃で腕が痺れる。
フクリサの力が強くて振り下ろしの攻撃で膝を折ってしまいそうになった。
「まだまだこんなもんじゃないぞ!」
力も強いが速度も速い。
多少剣筋は乱雑だが余りあるパワーと攻撃の速さでフクリサはジケに反撃を許さない。
「何を遊んでいるのですか?」
ただジケが必死の防御するのでフクリサの攻撃も決まらない。
その様子を見ていた秤を持った男が苛立ったような表情を浮かべる。
ただの子供を倒しきれなくてフクリサが手を抜いているように思えたのだ。
「俺が遊んでいるように見えるか? お前の大好きな均衡状態あるのは遊びでもなんでもないさ!」
フクリサも内心驚いていた。
ジケは押されながらも的確に攻撃を防いで一切隙を見せない。
それどころかフクリサが少しでも大きく攻撃すればすぐにでも反撃を繰り出そうとしている。
だからフクリサも大きく出ることをせずに様子を見るように攻撃を続けていた。
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