魔法使いの天敵3

「今の均衡を保つためには魔法がない方がいい」


「何をしようとしている!」


 ダンデムズは男が危険なことをしようとしている気配を感じ取った。

 杖を男に向けて火の玉を作り出す。


「均衡が崩れる……」


「なっ……」


 並んでいた男たちの何人かが急に血を吐き出した。

 口だけではなく目や鼻から血を噴き出して苦しみながら倒れていき、男が手に持った秤がゆっくりと傾いていく。


「やめんか!」


 ダンデムズが火の玉を撃ち出した。


「もう遅いです」


 血を噴き出して倒れた男たちが動かなくなった。


「なに!?」


「魔法が……消えた?」


 撃ち出されたダンデムズの魔法は真っ直ぐに男に向かったのだが男に当たる手前で火の玉はシュルシュルと小さくなって消えてしまった。

 ダンデムズのみならず他の魔法使いも何が起きたのか理解できずに驚きに目を見開いている。


「さて、均衡が崩れたことにより、均衡になりました」


 スカーアモ商会の黒いローブの男たちが剣を抜いた。


「皆殺しにして構いません」


「くっ、頼みますよ!」


 バーヘンの指示でヘギウス商会の人たちも剣を抜く。


「魔法が使えない……」


 ダンデムズが魔法を使おうとしても魔法が発動しない。

 異常な状態にロクブたちを見るがロクブたちも同じ状態だった。


「ぐわっ!」


「イムバーダ!」


 魔法使いの一人がスカーアモ商会の男に切り付けられて倒れる。

 魔法の使えない魔法使いなどただの一般人と変わらない。


 乱雑に振られた剣をかわすことすらできない。


「ダンデムズさん、逃げてください!」


 スカーアモ商会の方が人数が多い。

 ヘギウス商会の方も精鋭は連れてきているが人数差をひっくり返せる実力の者はいない。


 ダンデムズたちを守りながらでは余計に分が悪い。


「逃すか!」


「師匠!」


「ロクブ!」


 逃げるか迷ったダンデムズに剣が迫った。

 ロクブがダンデムズに迫る剣の前に飛び出して代わりに切り裂かれる。


「魔法が破られた方法を知りたかったのでしょう? その身を持って知ることになりましたね」


「貴様! なんの邪術を使った!」


「これは均衡を保つための道具……代償は必要ですが効果はよく分かったでしょう?」


 男が用いている方法は通常の手段ではない。

 明らかに常軌を逸脱した危険な方法でダンデムズは怒りの表情を浮かべる。


「早くお逃げください!」


 もう一人魔法使いが切り倒されてバーヘンは焦る。

 このままでは全滅してしまう。


「しかし……」


 ダンデムズは歯ぎしりする。

 逃げなければということはわかる。


 しかし逃げたところでどうなるのだ。

 高齢のダンデムズが走ったところで高が知れている。


 こんな状況で逃げられるとも思えなかったし倒された弟子の魔法使いたちを見捨てて行くことがダンデムズにはできなかった。

 こんなことならば異端審問官を連れてくればよかったと後悔した。


「師匠……」


「しね!」


「お前らだけを行かせはしない……」


 取るべき責任は取る。

 今回のことはダンデムズに責任がある。


 刃が迫るがダンデムズは逃げることも抵抗することもせずに目を閉じた。


「ダンデムズさん!」


 覚悟を決めたダンデムズに若い声が聞こえてきた。

 金属がぶつかる音、そして男性の短い悲鳴。


 ダンデムズが目を開けると切り掛かってきていた男が倒れていた。

 その横にジケが立っていた。


 異端審問官と一緒にいた少年で、ピンクダイヤモンドの持ち主であるとダンデムズは聞いていた。

 何が起きたのか目を閉じていたので理解ができない。


 自分よりもはるかに若い少年が男を倒したというのかと驚きを隠せない。


「おらっ!」


「意外と強いですね!」


 見るとリアーネとユディットもスカーアモ商会の男たちと戦っている。


「ふんっ!」


「はあっ!」


 それだけでなく異端審問官たちも飛び込んできていた。


「おやおや……これは」


 ジケたちと異端審問官まで入ってきて形勢は一気に逆転した。


「……魔法が使えない!」


「エニは俺の後ろに!」


 エニも一緒に来ていたのだけどダンデムズたちと同じく魔法が使えないでいた。

 エニの異常を察したジケは前に出るのをやめてエニのそばに寄る。


「確かに奇妙な感じがするな!」


 バルダーは戦いながら妙な感じを覚えていた。

 魔法を使うわけではないが戦いにおいて魔力は使う。


 魔力を扱おうとすると変な感じを受けるのだ。


「……魔力ない」


「魔力がない? 何いってるの?」


 この状況でジケは視ていた。

 世界には魔力が満ちている。


 物が持つ魔力の他にも空気中にも魔力がある。

 普段は魔力感知でもほとんど感知できないほどうっすらとしているが、魔力が濃いところでかなり集中を高めると霧がかかったように感知できることもある。


 しかし今はどれほど集中しても空気にあるはずの魔力を感じられなかった。

 人から発せられる魔力も体から出てすぐ空気に溶け込んで消えてしまう。


「何が起きてるんだ?」


「あの男が持っている秤の効果だ」


「ダンデムズさん、大丈夫ですか?」


「お前さんには助けられたな」


「それよりも秤の効果って……」


「おそらくあれは魔道具。しかし強力な効果を発するために代償を必要とする悪魔のような魔道具じゃ」


 人が血を噴き出して死んだのも魔道具の効果だろうとダンデムズは見ている。

 効果を発揮するためには生贄となる代償が必要であるのだ。

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