魔法使いの天敵2
「分かりました。では報告してまいります」
「よい、わざわざ行くこともない。手紙に書いて飛ばせばいい」
「しかし……」
「教えてやることで礼儀は果たされる。足を運ぶことはないのだ」
なかなかの暴論だとロクブは苦笑いを浮かべる。
情報を渡せば礼儀が果たされるなど決してない。
けれど魔塔は厳格な上下関係があって、さらに師弟関係にもあれば意見を言うことも簡単ではない。
ロクブはダンデムズの性格も理解している。
これは変に反論しても聞き入れないなと思ったロクブはすぐさま部屋を出てバーヘンに手紙を書いた。
紙を折って鳥のような形にすると窓を開けて紙の鳥に魔力を込める。
最初はバーヘンが用意してくれていた部屋に泊まっていたダンデムズたちだがダンデムズが魔力の流れが悪いからと宿を変えてしまった。
ある程度部屋を長く抑えていたバーヘンたちはそのまま同じ宿に泊まることにしたのでダンデムズたちとは別の宿に泊まっているのだ。
「ロクブ、行くぞ」
追跡魔法も長くは信号を発していられない。
今場所が分かっているうちにとダンデムズたちは追跡を始めた。
水晶の光が指し示す方向へ歩いていくと町の東にある大きな屋敷に着いた。
「門が閉ざされていますがどうしましょうか?」
「門だと?」
ダンデムズは手に炎の球を作り上げるとロクブが止める間も無く門に向かって放った。
「門などなかった。開いていたからワシらは入ったんじゃ」
ダンデムズはまたしてもとんでもない理論を展開する。
相当傲慢な理論であるがロクブには結局それを諌める力はないのである。
「入るぞ」
歪んで壊れた門を踏み越えてダンデムズが中に入っていく。
「……みんな覚えておいてくれ、悪いのは師匠だ」
ダンデムズが連れてきた魔法使いは比較的若く、ダンデムズよりもロクブの方に考えは近い。
後で責任問題になった時に誰が悪いかも一応はっきりとさせておく。
困惑している後輩魔法使いたちを促して中に入る。
ここでダンデムズを置いて帰るわけにはいかないのである。
「ロクブさん!」
「バーヘンさん、すいません……このようなことになって」
紙の鳥に導かれてバーヘンたちがロクブに追いついた。
「いえいえ、大丈夫ですがこんなに急にとは思いますね……」
ロクブは悪くないだろうとバーヘンも分かっている。
むしろこうして教えてくれているのだからありがたい方だろうとすら思う。
「ここにあるのですね?」
「ええ、おそらく」
バーヘンとしてはピンクダイヤモンドさえ取り戻せたら何でもいい。
ジケがそんなことを言い出しはしないが仮にピンクダイヤモンドの賠償なんて話になったらヘギウス商会の商会員が路頭に迷うことになってしまう。
引退を先延ばしにまでして引き受けた仕事を盗まれて終わりですなんてことにはしたくなかった。
「早く行きましょう。師匠が何をしでかすか分かりません」
「そうですね」
ゆったりとお屋敷に向かうダンデムズはもう入り口近くまで行っている。
ロクブとバーヘンはダンデムズを追いかける。
「鍵はかかっておらんな」
魔法を使ってドアノブに触れることなくドアを開く。
「む?」
ダンデムズが中に入ると入ってすぐの広いエントランスホールに人が並んでいた。
ダンデムズたちと同じような黒いローブを身につけた連中はいきなりの襲撃にも慌てるような様子もない。
待ち受けられていたことにダンデムズは軽く眉をひそめる。
なんとなく異様な雰囲気があってすぐに魔法を使えるように魔力を高める。
「魔塔の長老ともあろうお方がなんのご用でしょうか?」
中央にいる男が一歩前に出て声を発した。
フードを深く被っているので顔は窺い知れないけれど若い男に見えた。
ダンデムズは自分の素性が知られていることに大きく眉間にシワを寄せた。
魔塔の長老であることは調べれば分かることであるが追跡しているのがダンデムズたち魔塔の魔法使いであると把握されていたのかと少し驚きがある。
ならばスカーアモ商会で襲われたことは偶然ではなかったのである。
「ワシのことを知っているなら用件もわかっておろう? 盗んだものを返してもらおうか。そしてどうやって金庫にかけた魔法を破ったか聞かせてもらおうか」
ピンクダイヤモンドのことはダンデムズにとってついでのおまけに過ぎない。
知りたいのは金庫にかけてあった魔法を破った方法である。
こうしている間にロクブとバーヘンもダンデムズに追いついた。
ずらりと並ぶ黒いローブの連中にロクブとバーヘンも気味の悪さを感じずにはいられない。
「魔塔の魔法使いさんがこんなに……これではこちらに分が悪いですね」
「ならば大人しく言うことを聞くのだな」
魔塔の魔法使いは研究者も多いがもちろん魔法に関して優れた人も多い。
ダンデムズだけでも強力であるが複数人も魔塔の魔法使いがいると戦うのは厳しい。
「魔法を使われると均衡が崩れてしまいます」
「何を言っておる?」
男がローブの中から手を上げる。
その手には奇妙な銀の秤が持たれていた。
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