魔法使いの天敵1

 異端審問官はジケから東側が怪しいかもしれないという情報を受けて東側で情報収集を始めた。

 バーヘンにも一応情報は伝えたのだけどダンデムズたちは追跡魔法の反応を待つらしい。


 ジケも暇だったのでウィリアについていって情報収集を手伝う。

 ウィリアも人当たりは良い方なのだが異端審問官の紋章がついた黒い鎧は相手を萎縮させてしまう。


 対してそんな鎧もないスライムを抱えた少年や赤髪の少女はとても丁寧な態度で人々にも受け入れられやすく、簡単に話をしてくれた。


「わ、私も普段はもっと話し聞き出せるんですよ?」


 ウィリアが当たってダメでもジケが行けば話してくれることもある。

 まるでウィリアの方がちょっと悪いみたいになって慌てて取り繕う。


「分かってるって」


 ウィリアの態度が悪いとか口下手とかそんなことではなく異端審問官の鎧が悪い。

 黒色の鎧はそれだけで威圧感がある。


 異端審問官を知るものならリアクションも二つに分かれる。

 面倒だからさっさと話してしまう人と面倒だから何も話さないでおこうという人である。


 この辺りの人たちは異端審問官を知っているのか分からないけれどいかにも怪しげな黒い鎧のウィリアには口を閉じしてしまうようだ。

 しかし地道な聞き込み活動の結果スカーアモ商会の秘密の拠点と思わしき場所が見つかった。


 没落してしまった貴族のお屋敷で長らく空き家となっていたのだが最近になって人が出入りするようになった。

 あまり人影などは見えないにも関わらず大量の食材を抱えて入っていく人がいると目撃情報を得られたのである。


「派手な活動だけじゃなくこうしたことも多いんですよ」


 悪魔と戦うだけが異端審問官じゃない。

 周りに警戒されつつも地道に情報を集めたりすることも多い。


「いつもお疲れ様です」


「そんな風に言ってくれるのジケ君ぐらいですよ」


 そして今は情報を元にして怪しいお屋敷を監視していた。

 近くの家を借りて異端審問官が交代でお屋敷への人の出入りを見張っている。


 少しばかり遠いがお屋敷の正門がよく見えるので問題はなかった。

 こうした監視などを通じて情報をちゃんと確かめるということも異端審問官は行っているのだ。


「それにしても真っ黒な煙か……」


 話を聞いて回ったところ変なことを言う人もいた。

 お屋敷はぐるりと塀で囲まれていて中は見えないのであるが時折お屋敷の敷地内から黒い煙が上がっているのが目撃されている。


 火を焚けば煙も出ることはあるけれどそれにしては濃い黒い煙が、毎日でもなく時々上がっているのだという。

 別にお屋敷が火事になっているとかそんなものではなく、お屋敷の裏手の方で煙が上がっていたとある人は言っていた。


「何を燃やしたらそんな真っ黒な煙が上がるんだろうね?」


 暇そうにしているエニがジケと並んで窓からお屋敷の方を眺める。


「あれ?」


「おい……あれって……」


 一緒に窓から外を見てると近いな、とエニが思っていると門に近づく人が見えた。

 それはジケもエニも知っている相手で先日ジケたちも出会ったダンデムズを筆頭とした魔塔の魔法使いだった。


「あっ!」


 何をするのかとみんなして見ていたらダンデムズが門を吹き飛ばした。

 そして悠然と中に入っていく。


「何をして……」


 思わず呆然としてしまう。

 異端審問官も比較的過激なことをする組織ではあるけれどダンデムズはそれ以上に容赦がない。


「バーヘンさんもいるな」


 少し遅れてバーヘンたちヘギウス商会の人たちも到着してダンデムズの後を追いかけていった。


「他の人を呼んできます! ジケ君たちはここで待っていてください!」


 異常事態の発生。

 ウィリアは建物を飛び出して他の異端審問官を呼びにいった。


「まーたあの頑固爺さん勝手に突っ走ってるのか?」


 お屋敷の方から爆発音が聞こえてきてリアーネはため息をついた。

 どう見たってまたダンデムズが先行して、バーヘンは遅れて行動している。


 協力関係はどうなったと思うけれど急に動かれるとバーヘンだって情報共有もできないだろう。


「魔法使いって割と大人しいイメージだったんだけどなぁ」


 ーーーーー


「追跡魔法の発動を確認しました」


 ロクブが光り出した水晶をダンデムズの前に置いた。

 追跡魔法は常に発動しているわけではない。


 魔法であって魔力を使うことの関係から常時発動ではなく、周りの魔力を吸収して定期的に信号を発するような形で追跡を可能としている。

 ダンデムズたちは最後に信号が発された場所を探して追ってピンクダイヤモンドを盗んだ犯人を探していた。


 光る水晶はその追跡魔法の信号を傍受する役割を持っていた。


「ふむ……やはり反応は近いな」


 ダンデムズがとんと水晶に指を置いた。

 すると全体的に光っていた水晶の光が一定方向に寄っていく。


 光が集まった方向がピンクダイヤモンドのある方になる。


「準備をせえ。今すぐ出発するぞ。バーヘンさんには話をしておけ」


「異端審問官については……」


「バーヘンさん任せておけばいい」


 ダンデムズは少し苦い顔をして答えた。

 なぜ自分がわざわざ異端審問官に情報を流さねばならないのかと不満に思っていた。

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