衝突! 異端審問官と魔塔2
まず見えたのは泣いて許しをこう男だった。
腕が何周にも捻れていて、人にはあり得ない角度に曲がっている。
他にも床に倒れている人が多くいた。
そして許しをこう男の前にいるのは黒いローブを着た老人。
つい先日柄の悪い男たちに絡まれて魔法で撃退していた人であるとジケたちはすぐに気づいた。
特別悪人には見えなかったが怖いような雰囲気がある人だったなとその時のことを思い出す。
「貴様、何者だ!」
「人に名を聞くのならまず自らが名乗るといい」
圧をかけるようなバルダーの言葉を気にする様子もなくくおじいさんは鼻で笑う。
「俺はバルダー。異端審問官だ。その男性に手を出さないでくれませんか?」
「ほぅ、なぜだ?」
「殺されると面倒だ」
「ふっ、ならやってみるといい」
おじいさんが手をくいっと持ち上げると首をもたれたように男の体が浮き上がる。
「やめろ!」
バルダーが床を蹴って走る。
弓矢にも速度で勝てるのではないかというほどの速さでおじいさんと距離を詰めようとする。
「速いのぅ」
おじいさんがバルダーの方に手を向けると空中に浮き上がって苦しそうにしていた男が地面に落ちて倒れた。
「むっ!?」
代わりにバルダーの動きが止まる。
「いくら速くとも動けなければ意味があるまい?」
「なかなかお強いようだ……な!」
「なんじゃと!?」
みんなはあまり何が起きているか分かっていないがジケは魔力感知で何が起きているのかを視ていた。
おじいさんから放たれた魔力がバルダーの体を包み込んだ。
バルダーにまとわりつくように魔力がうごめいていて、これで拘束しているのだなとジケだけが理解していた。
しかしバルダーもただではやられない。
全身に魔力をみなぎらせて一気にまとわりつく魔力を引きちぎった。
その表現が正しいのかはジケに分からないけれど、バルダーが体に力を入れて魔力を引きちぎったように見えていたのである。
「そんな図体で迫られたらたまらんわい」
魔法が打ち破られたことに驚いたおじいさんだったけれどすぐに持ち直すとバルダーに手を向けるのをやめて杖を振った。
「魔法が早い……」
一瞬でおじいさんの周りに火炎が浮かび、渦を巻いてバルダーに向かって伸びていく。
「ふぅぅぅぅん!」
バルダーは眩しく感じるほどの真っ赤な火炎に戦斧を振った。
炎に向かって刃を立てるのではなくあおぐようにして振られた戦斧に当てられた火炎は散って消えてしまった。
「何という力……」
おじいさんは苦々しい顔をした。
「名前ぐらい聞かせてもらおうか!」
名前を聞くなら名乗れと言ったのにおじいさんはまだ名乗っていなかった。
話を聞き出すためには安易に相手を殺すわけにはいかないとバルダーは戦斧ではなく手を突き出した。
「魔法使いが接近されると何もできないと思うてか?」
おじいさんは首に迫った手に杖を向ける。
「うっ!?」
小さい爆発が起きてバルダーの手が振り上げられるようにして弾かれた。
肩がイカれそうな勢いで手が弾かれてバルダーは思わず顔を歪める。
「離れい」
今度はバルダーの胸に向けて杖を持ち上げ、暴風を放つ。
「お父さん!」
「大丈夫だ!」
吹き飛ばされて床を転がったバルダーは頭を振りながら立ち上がる。
「強い……」
「すごいね……師匠以上かもしれない」
ジケもエニも短い間に行われた激しいやりとりに呆然としてしまっていた。
エニの師匠はアカデミーの学長であるオロネアである。
魔法に関しても高い実力を誇る人で爵位を与えられアカデミーの学長という栄光ある役職まで任されている。
そんなオロネアよりもすごい魔法使いかもしれないとエニはおじいさんの力を見て思った。
「ここらで手を引かないか? これ以上は俺も手加減ができないぞ」
手加減というのは力に差があってこそできるもの。
おじいさんは強すぎてもはや手加減して戦えるような相手ではないとバルダーは思った。
殴っただけでも死んでしまいそうな相手だが魔法の実力は確かなのでもうここは全力で戦うことにした。
他の異端審問官たちも参戦するようでおじいさんを取り囲むように移動し始める。
「ふっふっ、お前さんたちが本気を出せばワシを倒せるとでも?」
どこまでも自信たっぷりなおじいさん。
どこからそんな自信がくるのか知らないけれど魔法の実力を見れば自信があるのも頷ける。
「それはやってみないと分からないな」
ただバルダーだって素人ではない。
異端審問官として悪魔と戦ってきた経験がある。
悪魔は魔法を使うことも多い。
魔法を使う悪魔を相手取ってきたのだから簡単にやられるつもりはない。
「まっ、待ってください!」
一触即発の空気、動き出すタイミングを見計らっていると部屋の中に黒いローブを着た男性が飛び込んできた。
バルダーとおじいさんの間に割り込んできて両手を上げ、無害アピールをする。
「何をしておる、ワジーマ!」
ジケや異端審問官の仲間ではない。
どうやらおじいさんの仲間らしく、戦いに割り込んできたワジーマにおじいさんは眉をひそめている。
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