衝突! 異端審問官と魔塔3
「何をしてるというのはこちらのセリフですよ! この人たちは異端審問官ですよ?」
「異端審問官? そんなもの知らん」
「もー! また変なところで常識知らずが……」
男は思わず頭を抱えた。
「まあともかくですよ、この人たちは敵じゃありませんよ!」
「だがこいつを守ろうとした」
「そりゃあここに来るぐらいですから何か用事があったんでしょう。用事のある相手を師匠が痛めつけてるんですから守ろうともしますって」
男はアワアワとおじいさんの説得にあたる。
戦いの緊張した空気は完全にどこかいってしまい、毒気を抜かれたバルダーは苦々しい顔をして様子を見ている。
漏れ聞こえる話からするにどうやら勘違いがあるようだと感じる。
「ダンデムズさん! ……この状況は……あれっ!?」
「あら、バーヘンさん?」
部屋の中に男と同じ黒いローブの集団と複数の武装した男たちが入ってきた。
また一瞬空気がピリついたけれどジケが知っている顔を見つけた。
ヘギウス商会にジケが預けたピンクダイヤモンドの売却を担当しているバーヘンであった。
「ジケさんが……どうしてこちらに?」
「全く同じ疑問を俺も思いますけどね……」
ーーーーー
人生生きていれば奇妙なこともある。
バーヘンは奪われたピンクダイヤモンドを取り戻そうと動いていた。
ピンクダイヤモンドには追跡魔法という場所が分かる魔法がかけられていて、バーヘンはそれを元にして行方を追っていたのだ。
追跡の過程でバーヘンに協力してくれる人たちがいた。
それが魔塔の魔法使いたちである。
魔塔とは魔法使いが集まる研究機関のようなもので基本的にはあまり外に出てこない組織であるのだが珍しくピンクダイヤモンドの件には関わってきた。
なぜならピンクダイヤモンドを守っていた魔法を金庫にかけたのが魔塔の魔法使いだったから。
ピンクダイヤモンドを取り戻すことに協力しようというよりはどこの誰がどうやって金庫にかけられた魔法を打ち破ったのかということを知りたくて協力している。
そしてあそこにバーヘンが来た理由はもちろんピンクダイヤモンドを追いかけてのことだった。
「師匠が一人で突っ走るから……」
「一人で解決できることなのだからお前らを待つこともないだろう」
何があったのか。
まずおじいさんは名前をダンデムズといい、魔塔における長老と呼ばれる偉い立場の人である。
同時に高い実力を持つ魔法使いであり、金庫の魔法が破られたことに対して強く興味を持っていた。
追跡魔法の効果によってスカーアモ商会にピンクダイヤモンドがある可能性が判明した。
そこでバーヘンたちはスカーアモ商会に乗り込む準備をしていたのだが、痺れを切らしたダンデムズが勝手に一人でスカーアモ商会に乗り込んでしまったのである。
「それであんなことに……」
「ご報告が遅れて申し訳ありません」
「いえ、報告されても家にいないので結局同じことだったでしょう」
スカーアモ商会での惨劇はダンデムズがやったものだった。
だがしかし、ダンデムズの独断だけが悪いわけでもなかった。
「あそこにいたのは下っ端。それもワシのことを待ち受けておった」
反省の色もないダンデムズがため息をつく。
一人でスカーアモ商会に赴いたダンデムズだったが相手は武装して待ち受けていたのである。
魔法を破った方法を聞けて、ついでにピンクダイヤモンドを取り戻せればいいと思っていた。
なのにスカーアモ商会に乗り込むなり襲いかかられたのでダンデムズも反撃したのだ。
さらにはスカーアモにいたのは雇われたような男たちばかりで魔法を破った人もいなければピンクダイヤモンドもなかった。
ジケたちが乗り込んだ時には本来のスカーアモ商会の人たちはどこに行ったのかと聞き出そうとしているところだったのである。
「勘違いをさせてしまったこと、謝罪いたします」
「ワシは謝らんぞ」
「師匠……私も謝罪します」
ダンデムズの代わりにバーヘンが頭を下げる。
あくまで協力関係であってバーヘンにダンデムズを統制するような権利もない。
しかし迷惑をかけてしまったことは確かで、一歩間違えるとダンデムズとバルダーの死闘になるところだった。
ダンデムズの弟子であるロクブという魔法使いもため息をついて頭を下げた。
ロクブも相当苦労人であるようだ。
ちなみに衝突の原因としてはダンデムズが異端審問官を知らなかったというのも理由であった。
研究や魔法を極めることに人生を捧げてきたダンデムズは変なところで知識がなかったりするらしい。
異端審問官も関わりがなきゃ知らない人も普通に存在しているので無理もない話である。
「ともかく……宝石もなかったしスカーアモ商会の関係者もいなかったんですね」
起きてしまったことはしょうがない。
これからのことを考える。
現状としてはスカーアモ商会はかなりブラックなところのようだ。
悪魔教と関わりがある可能性もあれば宝石強盗の可能性まである。
今回の襲撃で何の確定的な証拠も出なかったけれど武装して待ち受けていたことで余計に怪しさが増していく。
「何者なんだ……スカーアモ商会」
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