いるということは1

「飯でも食うか」


 今回連れてきているのはユディットとリアーネ、そしてエニ。

 仕事とも言いにくいし楽しい何かがあるわけじゃないので本来ならユディットとリアーネだけ連れて来るつもりだった。


 でも“あんたが行くと絶対何かあるから”と言って魔法も治療も扱えるエニがついてきてくれることになった。

 ユディットとリアーネもエニの能力ならば来てくれるとありがたいとなったのである。


 そんなトラブルばかりでもないと反論しようとしたのだけどよくよく考えるとそんな反論もできなかった自分が情けない。

 まあ今回はそんなトラブルも起きないだろうなんて思いつつ美味しいご飯屋さんを探す。


「何食べたい?」


「肉!」

 

「私もお肉でいいかな」


「私もなんでも構いません」


 ここにニノサンがいたら元気いっぱいのリアーネを見て護衛にふさわしい態度が、なんて小言を言っていたかもしれない。

 ただここに小うるさく言う人はおらず、リアーネの意見通り肉料理に決まった。


 そもそも水辺の町じゃなきゃ魚料理は期待できないし、あとは何料理なんだって話である。


「肉料理か……なんか良い店あるかな?」


 こんなことならマクサロスにおすすめの店でも聞いておけばよかったなとジケは思う。


「ジケ君!」


 誰かに聞いてみようなんて思っていると急に声をかけられた。

 女性の声。


 もちろんこの町に知り合いなんていないので誰だろうと思いながら振り向いた。


「ウィリアさん!」


 そこには手を振ってジケの方に走ってくる女性がいた。

 金髪の髪を束ねてポニーテールにしている若い女性で、身につけた黒い鎧には特徴的な紋章が刻まれている。


 かつてボージェナルという港湾都市に行った時に共に悪魔教と戦うことになった異端審問官のウィリアであった。

 本来ならば他に行くところをこの国に異端審問官の支部を置くことになり、ウィリアもそこに配属されていた。


 休みをもらった時に顔を出したりもしていたのだが異端審問官はあちこち飛び回ったりするのでかなり過酷な仕事でもある。

 あまり顔を合わせる頻度としては高くはなかった。


 もちろんのことながらこんなところで会う約束などしていない。


「お久しぶりですね!」


 ウィリアはジケに会えて嬉しそうな表情をしている。


「どうしてここに?」


 対してジケはウィリアがここにいることに驚きを隠せない。


「こっちこそ同じ気持ちですよ?」


 約束もしていないのに離れた町で出会うことにウィリアの方も驚きがあった。


「私は仕事です」


「そりゃそうか」


 用事があったり知り合いでもいない限りこうした町に来ることはない。

 この国の出身でもないフィリアの知り合いがたまたまこの町にいたとは考えにくい。


 それに異端審問官の鎧を身につけているのだし普通に考えれば異端審問官の仕事としてきているのだなと分かる。


「ジケ君は?」


「俺は……仕事……みたいなものかな?」


「みたいなものですか?」


 ジケは肩をすくめる。

 仕事かと言われると微妙なところである。

 

 だが一方で私用かというとそれも少し微妙。

 一応仕事に関わることではあるので仕事だということにしておく。


「ウィリアが仕事でいるってことは……」


「その通りです」


 異端審問官は異端なもの、つまりは悪魔や悪魔を崇拝している悪魔教と呼ばれる宗教を取り締まっている。

 悪魔や悪魔教が平穏無事で大人しい連中ならば取り締まることもないのだけど、実際悪魔や悪魔教は他者を害することもある危険な存在なのである。


 異端審問官はそうした存在と戦う組織でウィリアも異端審問官として悪魔教と戦っている。

 ジケも悪魔教のせいで酷い目にあったことがあるのでウィリアは応援してる。


 ただ異端審問官も結構過激で、ジケは取り調べとしてキツい拘束をされた記憶もあった。

 ウィリアは応援してるけど異端審問官全体としてはあまり好きな組織ではないなとジケ個人の感想である。


 ウィリアが仕事でここにいる。

 このことが指し示す意味は口にするまでもない。


 悪魔、あるいは悪魔教に関わる何かがこの町にあるということである。


「私、用事を済ませてこれからお昼にするところだったんです。ご一緒にどうですか?」


「俺たちも店を探しているところだったんだ」


「じゃあぜひ!」


「どこかオススメの店はある?」


「私もここに来たばかりですが美味しい食べ物の調査は欠かせません! 良い店ご案内しますよ!」


 ーーーーー


「それで、何があったのか聞いてもいいか?」


 ウィリアの案内で入ったお店は大当たりだった。

 リアーネの希望通りの肉料理もあってお値段も良心的で、流石のリサーチ力だと感心した。


 近況なんかを話しながら食事をしていたが気になったのでここにいる理由について少し踏み込んでみた。

 異端審問官がいる理由は分かるけど何があって悪魔教の存在が疑われるのかを疑問に思った。


 正直なんの変哲もない町だから。


「あんまり話しちゃいけないんですがジケ君ならいいでしょう。最近違法な薬が出回っていることは知っていますか?」


 悪魔教との戦いの一件からジケは師匠であるグルゼイと共に異端審問官の協力者とみられている。

 一般人ならウィリアも事情を話すことはないけれど協力者たるジケならいいだろうと考えた。

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