怪しい商会何してる2
「シゴム商会……でしたね」
マクサロスはフェッツから受け取った資料を取り出した。
ジケが来る前からすでに調査を始めていたのでそうしたものも加えてある。
「シゴム商会はこちらに支部はありません。単に物を売りにだけ来ているみたいですね」
ここはクレイシアという町で首都から見て南東方向にある。
位置としてはちょっと微妙なところにあり、都市として大きくもなく小さくもないぐらいの発展で留まっている。
ただ南と東どちらからも品物が流れてくるのでそれなりの豊かさもあった。
言ってしまえば平凡な町で特徴的なこともない。
マクサロスがここに商会の支部を置いているのはクレイシアにおいて不足していた物をたまたま扱っていたから利益が出せそうだと見込んだからだった。
「支部がないので直接調べはできませんがフェッツの方で売っている相手も特定してくれていました」
「そうなんですか」
さすがはフェッツである。
「ただ問題があります」
「問題ですか?」
「相手の商会は商人ギルドに所属していないのですよ」
商人ギルドは商人や商会を統括している。
けれども全ての商会が商人ギルドに所属しているわけではない。
商人ギルドに所属することで保護を受けられたり横のつながりができたりもするが、強制加入ではなく自分の力だけでやっていくことももちろん選択できる。
「スカーアモ商会というところらしいのですが……商人ギルドに所属していないばかりか情報そのものがほとんどありませんね」
いつからあるのかも分からない商会がシゴム商会の馬車の売り先であった。
あまり他には売っている様子はなく、スカーアモ商会が馬車を定期購入している。
スカーアモ商会は規模が小さく、そんなに馬車を欲するようには今のところ思えない。
「ですが調べてみます。怪しい買い物には理由があるはずです」
なぜ馬車を定期的に仕入れねばならないのか。
その理由が分かればシゴム商会のお金がどこから来ているのかも分かるかもしれない。
「何か手伝えることはありますか?」
「今のところはまだ。スカーアモ商会が扱っている商品によっては潜入してもらうこともあるかもしれません。何かわかったらすぐにお知らせします」
「協力ありがとうございます」
「息子にならずとも才能ある若者と関係を築いておくのは大事ですからね」
少なくともジケは恩を売っておくにふさわしい相手であるとマクサロスは考えている。
良い関係を築いておけば後々に繋がることもある。
「観光地ではありませんが……のんびりとなさってください。見るものはなくても美味しい料理屋ぐらいはありますから」
「……そうします」
できることがないのなら仕方ない。
大人しくしているより他にできることがないのだから。
「……ああ、後は気をつけてください。最近少し危ない連中もいますので」
「何かあるんですか?」
「…………薬が出回っているのです」
マクサロスはちょっとだけためらったがジケならいいだろうと口を開いた。
「何の薬が……?」
「そのものは通常の薬なのです。しかし火で炙って煙を吸うと段々と気分が良くなってくる。一度やるとまたやりたくなるみたいで……一般向けの薬ではないので違法に取引されているのです」
通常は痛み止めとしての効果を持つ薬なのだがお皿などに薄く移して下から火で炙ると白い煙が立ち上る。
その煙を吸い込むと脳の奥が痺れたようになって気分が良くなるのだ。
普通に使う分にはちゃんと薬であるのだがそうした効果も考えて資格を持った人しか手に入れられない薬となっている。
しかしどうやってか薬を裏で取引している人がいる。
「商人ギルドや医療ギルドでも追いかけている問題なのです。少し前にこのクレイシアでも取引が行われているという噂が流れていまして、同時にあまり見かけないような連中も増えたのです」
まだ薬については噂であるし怪しい連中も特に誰かに害を与えたわけでもない。
けれど頭の片隅にでも注意したことを覚えておいて貰えばどこかで役立つかもしれない。
「護衛の皆さんもいらっしゃるので大丈夫だとは思いますが……何かありましたら私をいつでも頼ってください」
「そうさせてもらいます」
マクサロスの協力に感謝する。
ジケが下手に動き回るよりも任せた方がいいだろうとジケはマクサロスの商会を出た。
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