怪しい商会何してる1

「よく来てくれましたね」


「あれ……まさかわざわざ?」


「君が来るというので」


 シゴム商会について情報が入った。

 商会長のシゴムが定期的に馬車を売っている先があるというのだ。


 フェッツと情報屋の両方から同じ情報が入ってきたのだからどこかに売っているのは間違いない。

 馬車を作って売っているというところだけ取り出すとジケと同じで特出すべきことではないように思える。


 しかし今の時代馬車なんて一台買えばしばらく長持ちするものも多く、新しく買うような需要はかなり少なくなっている。

 だからこそジケの揺れの少ない馬車みたいな大きな付加価値をつけないと売れないような時代なのだ。


 定期的に馬車を売るということの理解もできない。

 馬車なんて余程のことがなければ買い替えない。


 同じ町の中で顧客を探して売ることはあるだろうけど定期的に売るのはなかなか難しい。

 行為自体は怪しくないのに噛み砕いてみてみると怪しさがある。


 相変わらず黒ではないが拭いきれない怪しさがある。

 情報屋の調査は継続となったがフェッツの方、つまりは商人ギルドでの調査は難航していた。


 元々証拠があって動いている調査ではないのでできることにも限界がある。

 さらにはシゴム商会が馬車を売りに行っている町には商人ギルドの支部もなくフェッツの商会の支部もない。


 そうしたところでもフェッツが調査を継続しにくかった。

 そこで別の商人に協力を仰ぐことになった。


「わざわざご足労ありがとうございます、マクサロスさん」


 その商人とはマクサロスであった。

 商人ギルドの副ギルド長であり、ジケが魔獣の素材の活用法を商人ギルドに特許として申請する時に審査をしてくれた人である。


 まだ特許申請のみで何の功績もなかったジケに対して才能を見抜いて養子にならないかとまで誘った豪腕の商人でもある。

 あの時はマクサロスのことをよく知りもしなかったし、細目で何を考えているのか分からないところがあったので断った。


 けれど今は印象がだいぶ違っている。

 それは過去のことを思い出したせいもある。


 副ギルド長のマクサロスのことをジケはあまり記憶していなかった。

 フェッツが逃げたということはマクサロスが臨時でもトップに立って対応したはずなのに覚えていないのだ。


 それもそのはずでマクサロスはフェッツが逃げた時には死んでいた。

 思い出したのだ。


 副ギルド長が変死体で発見されたという話を。

 おそらく副ギルド長に変わりはないだろうからマクサロスが副ギルド長だったはず。

 

 ということはマクサロスが変死体で発見されたということになるのだ。

 その直後にフェッツは逃げ出した。


 もしかしたらマクサロスのこともフェッツが逃げた要因だったのかもしれない。

 戦争中に変死体で発見されることの意味は暗殺だろうとジケでも分かる。


 暗殺されたのならばきっとマクサロスは戦争中において逃げようともせず、戦うことを選んだ人なのだろうということもジケは感じた。

 説得に応じなさそう、あるいは応じなかったから殺されたのである。


 そう考えるとマクサロスも意外と悪い商人じゃないかもと思えてくる。


「……どうかしましたか?」


「あ、いえ」


 さらにはフェッツによるとマクサロスは熱い人らしい。

 いかにも商人らしいふくよかなフェッツは意外と臆病で慎重なのに対し、マクサロスは慎重そうに見えて意外と豪胆でフェッツとは逆の性質を持っているようだった。


 副ギルド長でもあるマクサロスは信頼ができるとジケも判断し、フェッツが事情を話した。

 マクサロスもシゴム商会の話を聞いて同様に怪しさを感じて、しかもジケのお願いだということで調査に協力してくれることになったのである。


「それでどうでしょう? 私の息子の座はまだ空いていますよ?」


「何か機会があればお世話になることもあるかもしれません」


 別に今すぐ息子になろうなんて気はないけれど完全にノーと言えるほどマクサロスが嫌というわけでもなかった。


「ハッハッハッ! 良い答えです! 否定でも肯定でもなく、気を持たせる答えだ」


 今の功績を考えると最初に会った時に無理矢理でも話を進めてしまっていればよかったとすらマクサロスは思う。

 前はキッパリ断っていたのにジケが成長したのか、それとも少し関係性が前進したのか。


 どちらにしても悪い気はしない。


「どうせ私を利用しようとする人なんていません。よければ使ってください」


「もしかしたら父親になるかもしれないのにそんなことはできませんよ」


「ふふ、そうですか」


「それで……今回協力していただけるということですか?」


「そうです。たまたまやらねばならない仕事もあったのでついでに顔を出したのです」


 この町にはマクサロスの商会の支部がある。

 支部も何もないフェッツよりも自由に動くことができる。


 本来ならばマクサロス本人が出てくることもない。

 けれどジケが来るならばとマクサロスもわざわざ直接出てきてくれていたのだ。


 ジケも出てくることはなかったのだけど調査だけさせて自分は家でのんびりとはいかないので何か手伝えることでもあればと動いていた。

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