私と踊ってくれますか?1

 パーティー二日目。

 ジケたちはこの日も王城でのパーティーに参加することになった。


 一日目は長々と人が列を成して挨拶を交わし、贈り物を手渡していくのにかなりの時間を取られた。

 王子の体調の都合もあって少し早めにパーティーは終わった。


 しかし記念すべき王子生誕のパーティーは一日では終わらない。

 二日目は催し物なども用意されて、社交的なダンスなんかも踊ったりする。


「むぅ……」


「機嫌なおせよ」


「あれなら最初ジケと来ればよかった」


 ミュコは少し不機嫌そうに頬を膨らませている。

 一日目もミュコと合流したのだけど会えたのはパーティーの終わりがけであった。


 劇団の準備でトラブルがあったらしくて手伝ったりしているうちに時間が過ぎてしまっていた。

 結局初日は公演もなく、それならジケと来ていればよかったと少しだけ拗ねているのだ。


 二日目は最初からジケと来ていたが歌劇団の方で講演があるのでまたすぐに行かねばならなくなる。


「せっかくのパーティー拗ねたまま終わるつもりか?」


「むぅ……分かったよぅ」


 ジケの説得でミュコは気分を持ち直す。

 二日目であるのだがジケたちは同じ服装をしていた。


 一般的な貴族のパーティーの場合複数日に及ぶ場合は女性はドレスを替えるのが普通のことになる。

 だがエニやリアーネもドレスはそのまま。


 お金がなかったとか常識がなかったわけではない。

 今回のパーティーにおいてはこれが正しいマナーなのである。


 王子生誕を祝うためのパーティーは一日では終わらず盛大に続けられる。

 つまり二日目ではあるが一度終わらせて二日目なのではなく前日からパーティーはずっと続いていて二日目に突入したのであるとみなされている。


 そのために服装も変えずに前日から引き続いてパーティーに参加することが礼儀になるのだ。

 もしかしたら何着もドレスを用意しなければならないなんて面倒を避けさせるための方便かもしれない。


「……何が始まるんだ?」


 パクパクと出された料理を食べているとホールに人が集まってきた。

 そして王子を抱いた第一王妃と王様が出てきた。


 昨日王子にフィオスを渡したのだが、結局王子が引き上げるまでずっとフィオスは王子のそばにいた。

 掴まれたり叩かれたりしていたがフィオスはそんなこと気にしない。


 最終的には王子がフィオスを抱きかかえるようにして寝てしまっていた。

 フィオスの価値が分かるステキな王子であるとジケは感心した。


 そんな王子は第一王妃に抱かれてニコニコしている。

 人の視線を気にしない大物ぶりを発揮している。


「静かに」


 王様が一言発するだけでホールがピタリと静かになる。


「これより聖杯の儀を取り行う」


「聖杯の儀……?」


 ジケは聖杯の儀というものが何なのか知らない。

 お皿に取ったものを食べながら王様の様子を見ているとライナスの師匠でもあるビクシムが杯を運んできた。


 何だか見たことあるとジケは思った。

 すぐには思い出せなかったのだけどジッと杯を見ていてようやく思い出した。


 パルンサンの宝物庫で見つけた杯に似ているのだ。

 ただパルンサンの宝物庫で見つけた杯もビクシムが持っている杯も特別派手なものではない。


 似ていても不思議なことはない。


「我らには神より賜った特別な聖杯が代々受け継がれてきた。一年に一度、聖杯は特別な液体で満たされる」


 あれで何するんだと思っていたら王様が簡単に説明してくれた。


「聖杯に満ちた液体は病に犯された者が飲めば病気を治し、健康な者が飲めば体を丈夫にしてくれる。新たなる太陽の健やかな今後を願い、聖杯が生み出す聖水を王子に飲ませることにする」


「……うーん」


 なんだか少しだけ聞いたことがあるというか、経験したことがあるというような気がしてならない。

 ジケはたまたま杯に入っていた液体を飲んでしまった。


 その後体の調子はすこぶる良い。

 まるで王様が言った聖杯の液体でも飲んだようだった。


 見るとビクシムが持っている杯にも並々と透明な液体が入っている。

 王様はビクシムから杯を受け取ると王子に少しずつそれを飲ませていく。


 いくら大人しい子とはいえ杯一杯分の液体を飲むのは大変で、休み休みこぼさないように慎重に飲ませている。


「ジケ君」


「ん? アユイン」


 ジケが赤ちゃんが何か飲まされているのをどう見ていたらいいのかわからなくて暇を持て余していると、アユインがいつの間にか隣に立っていた。


「あれ、私が生まれたばかりの頃にもやったんですよ」


「あの聖杯は本当に神様から?」


「……それは、分かんないです」


 アユインは肩をすくめた。


「神様からもらった聖なる魔道具だと私は聞いていますけど……本当かまでは」


「まあ、そうだよな」


「でも普段はお城の宝物庫に大事に保管されていて、私もこんな時でしか見ることが無いぐらい貴重なものなんですよ」


 貴重なものでも自分がその恩恵にあずかるわけではない。

 もしかしたらパルンサンの宝物庫にあった杯も王様が持っているような効果があるものなのかもしれないなとジケ思った。

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