王女じゃなくアユイン6

「よく来てくれたな」


「王様にご招待預かっては断るわけにはいきませんから。今日は栄光ある記念すべき日にご招待頂きましてありがとうございます」


 ジケがゆっくりと頭を下げるとリアーネも一緒に頭を下げる。


「うむ、堅苦しい挨拶はこれぐらいにしよう」

 

 第一王妃が驚いたように王様とジケのことを見ている。

 今ここはかなり格式の高い場となる。


 なのに王様はジケに対して甘い態度を取っていた。

 他の貴族には固い挨拶はやめようなど言うことはないだろうに。


 さらにはジケはフィオスを抱えている。

 魔獣を出していて挨拶の時にも出しているなんてあり得ない行いであるのだけどシードンがむしろ出したままでもいいですよと言ったのでフィオスもご挨拶する。


「君にはぜひともこの子の兄のようになってほしいとすら思っている」


「そんな……!」


 ジケのみならず第一王妃も王様の言葉に驚いている。


「私が知る中で君の才覚は最も優れている。君は君のすべきことを通してこの国を支えてほしい」


 認めてもらった。

 そんな思いがジケの中にはあった。

 

 過去では泥水をすするような底辺の生活をしていたジケが今回の人生では王様に認めてもらえたのだ。

 ジケの胸に感動が広がる。


「ありがとうございます」


 グッと湧き上がってくる感情を抑えて精一杯の笑顔を浮かべた。


「これからも君が才覚を発揮してくれることを期待している。そして……それが贈り物かな?」


「あっ、いえ、これではなくて……」


 リアーネが持っている箱に王様が目を向ける。

 ジケが振り返ると騎士が二人して白い布が被せられた大きなものを王様の前まで運んできた。


「こちらが新たな太陽に贈るプレゼントです」


 ジケが持ってきたプレゼントは大きいものだったので騎士に預けておいた。

 タイミングを見計らって持ってきてくれるということだったのだがもう少し早く持ってきてくれてもいいんじゃないかと思う。


「これが……?」


「布はとってください」


「では贈り物を見させてもらおう」


 王様は一度第一王妃に目配せすると布を取った。


「これは……」


「ベビーベッドです」


 布の下から現れたのは小さめのサイズのベッドであった。

 四方を柵に囲んでいて子供を寝かせても簡単には落下しないようになっている。


 贈り物に何がいいのかはジケも頭を悩ませた。

 せっかく赤ちゃんが産まれたのだからベビーベッドはどうだろうと思いついたのだ。

 

 実は招待状をもらう前にベビーベッドの開発を行なっていたのである。

 ジケが抱える工房主のノーヴィスの孫が産まれていて、アラクネノネドコを活かしたベビーベッドを作ることはできないかと打診されていた。


 赤ちゃんが寝ていても快適なアラクネノネドコを使い、さらには小さいサイズのクモノイタを角などに貼り付けてぶつかっても大丈夫なように作った。

 ノーヴィスの孫に協力してもらいながらどんな硬さがいいとか調整を繰り返して、子供の寝返りなどに良さそうな硬さなんかを追求した。


 その結果生まれたのがフィオス商会特性アラクネノネドコベビーベッドである。

 しかもただのベビーベッドではなくアラクネノネドコ部分に防水加工も施してある。


 たとえ赤ちゃんがお粗相してもアラクネノネドコそのものは濡れず、シーツを変えるだけで済んでしまうという優れものでもあるのだ。


「ふむ……ベビーベッドか」


 これはまた不思議なものを作ってきたものだと王様は目を細めた。

 普通の貴族ではなかなかこうした場でベビーベッドを贈りはしない。


「寝かせてみないか?」


 王様は第一王妃に抱いている王子を寝かせてみるように促した。


「実は少し困っていたのだ。抱いている間は大人しい子なのだが寝かせるとすぐに泣き出してしまう」


 王様は困ったように笑う。

 多くの人に囲まれてもニコニコとしている王子であるのだがベッドに寝かせようとすると泣き出してしまうのである。


 そんなに四六時中人が抱きかかえているわけにもいかないので大人しく寝ていてくれることがあると助かると考えていた。

 ここで泣かれると困るから後で試してほしいところであるが寝かさないでくださいとも言えないジケは曖昧に笑う。


「どうだ……?」


 第一王妃が王子をベビーベッドに寝かせる。

 寝かされた王子の目が大きく見開かれる。


「笑った……」


 そのまま泣き出すのかと思ったら王子はニコリと笑顔を浮かべた。

 やや硬めで体をゆっくりと受け止めてくれるようなアラクネノネドコの感触を気に入ったようだった。


 第一王妃と王様が顔を合わせて笑顔を浮かべる。


「これは素晴らしい贈り物をしてくれたな」


「……あら、どうしたのでしょうか?」


 泣き出さないことにホッと安心して王子のことを覗き込んだジケは王子と目が合った。

 そしてあーあー言いながら手を伸ばしている。


「フィオスに興味があるのかもしれないな」


 ジケの顔、というよりも視線が少し下っぽいと王様は気がついた。

 そうなると見ているのはジケが抱えているフィオスになる。


「少しフィオスを貸してくれないか?」


 王様がジケの背を押して王子に近づくように促した。

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