王女じゃなくアユイン4
「もちろん守るさ」
困っていたり対処できなさそうならジケだってリンデランとウルシュナを守るために前に出る。
だけど生粋の貴族の二人はああした相手のあしらい方を分かっている。
下手にジケが口を出してややこしいことになるぐらいならお任せしていた方がいい。
「ふーん」
「実際あいつのことちゃんと相手してただろ?」
「あれだってジケが俺を通してくれなきゃ困るな、って言ってくれればいーじゃん?」
ちょっと声色を変えてジケっぽく真似するウルシュナ。
「んなこと言うならウルシュナのこと守ってやんないからな!」
「あっ、すねたー」
「ふふ、じゃあ私のことは守ってくださいね」
「ずるいぞー!」
「仲良くやっているようだな」
「おじい様」
冗談混じりに楽しく会話しているとパージヴェルとリンディアがそばに来ていた。
「どんなものができるのか楽しみにしていたけれど想像以上ね」
リンディアはジケの服をまじまじと見ている。
他でもないリンディアがロイヤル品質の布を送ってくれた。
服やドレスを作ることは知っていた上にジケがシェリラン、つまりはトードスマイルと呼ばれる服職人を抱えてることも把握済みである。
どんなものを作ってくるのリンディアは興味があった。
「少し見せてもらってもいいかしら?」
「……今はやめておくんだ。始まるようだぞ」
リンディアはジケの服だけひん剥むいて持っていくんじゃないかという目をしていた。
しかしそこに王様が現れて会場が一気に静かになった。
あれだけ騒がしかったのに物音一つしなくなり、視線が王様に集まって言葉を待つ。
「今日は招待に応じてくれて感謝する」
王様がゆっくりと招待客を見回す。
「我が国にまた一つの命が生まれた。それは……未来の太陽だ」
この国において王様は太陽だと言われる。
太陽そのものではなく初代の王様が太陽の力を持つ魔獣を従えていたことに由来していて今では王様は太陽とたとえられるのだ。
王様が太陽なので王妃や王女は月となる。
そして王様が未来の太陽と口にしたということは男児が生まれたのだということになる。
「おめでとうございます!」
真っ先に祝いの声を上げたのは宰相であるシードンだった。
そしてシードンに続くようにみな王子の誕生を口々に祝うのだ。
全くもって奇妙なやり方だと思うが一定の礼儀作法のようなものなのだろう。
ジケはとりあえず少し待って終わりの方でおめでとうございますと言っておいた。
王様から挨拶の言葉があって、そして赤ちゃんを抱いた王妃様が入ってきた。
アユインの母親ではない。
アユインは第三王妃の娘になり、今回王子を産んだのは第一王妃となる。
第一王妃はクールな印象の顔立ちをした人で、これまで子供がいないせいなのかあまり表に出てこずジケも顔を見たことはなかった。
「あれが未来の王様か……」
未来で王様はどうだっただろうかと思い出そうとしてみるが記憶に残っていない。
戦争や災害のせいで国内の情勢が安定的になる時間が少なく、今の王様がどうにか保たせていたために代替わりが大きく遅れた。
王様が長生きだったせいもあるのだろう。
だいぶ国内が安定したタイミングで王様が亡くなって新たな王様になったのでジケが生きている間に目覚ましい功績もなかった、
遠く王妃の腕に抱かれた王子は王様に似ているかなとジケは思った。
王様が小難しい言葉で挨拶を並べ、子の生誕を祝い未来への明るい展望を口にする。
過去では最終的に王様になったから元気に育つのだろうとあまり興味もなくぼんやりと話を聞いていた。
「そして、もう一つ聞いてもらいたいことがある。これまで安全上の都合から私の娘のアユイニュートは表舞台に出てこなかった。しかし今日からは月も社交界に顔を出していこうと思っている」
正直な話、ジケは王子の生誕を祝うために呼ばれたわけではなかった。
ようやくジケが呼ばれることになったアユインのことも王様の口から紹介された。
月と表現されたアユインが第三王妃に付き添われて姿を現した。
真っ白なドレスを身につけて着飾ったアユインはピッと背筋を伸ばして歩いている。
とても大人っぽいと思った。
「綺麗だね」
「うん、きれー」
暇そうにしていたタミとケリもアユインの姿に見入っている。
言葉には言い表しにくいような気品というものが今のアユインにはあった。
ジケはアユインと一瞬目があったような気がした。
「はじめまして、皆さま」
アユインはスカートを摘んで上品に一礼。
そして挨拶の言葉を口にする。
こんな大勢の前で緊張しないはずないだろうに、緊張していないかのように堂々としていて挨拶も聞きやすい速度や音量を保っている。
表舞台に出なかったからとこうしたことの練習もしてこなかったわけではないのだ。
「皆さまともっと交流をしていければと考えております。これからよろしくお願いいたします」
アユインが簡単な挨拶を終えると拍手が起こる。
「ぜひとも太陽と月を祝ってほしい」
王様の言葉と同時に料理や飲み物が運ばれてきた。
パーティーの始まりである。
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