王女じゃなくアユイン2

「久しぶりね」


「お久しぶりです、サーシャさん、ルシウスさん」


 ウルシュナがリンデランに念を送っている間にジケはサーシャ、ルシウスと軽く挨拶する。

 年頃の娘がいるとは思えないような若々しいゼレンティガム夫婦は腕を組んで歩いている。


 二人は社交界でもおしどり夫婦としても名高い。


「その格好似合ってるじゃない。それに他の子たちもまとまりがあって面白いわね」


 サーシャはジケたちの姿を見て目を細めた。


「それにフィオスまで……どこに依頼したら作ってもらえるのかしら?」


 フィオスにまで青を基調とした服を用意する周到さは流石だなとサーシャは思う。

 テーマを統一した服装でありながら非常にセンスの良い服装でサーシャもデザイナーを知りたくなった。


「うちに依頼してくれたら作るかもしれませんよ?」


「あら、いつの間に手を広げたのかしら?」


「ノってるうちに色々やってみるのもいいですからね」


 サーシャは後で是非とも調べてみようと思いながら笑顔を浮かべた。

 やはり侮れない少年であると思わざるを得ない。


「私たちは挨拶回りしてくるからあなたはジケ君を落としてなさい」


「落と……」


「サーシャ……」


「そろそろ疲れたでしょう?」


 顔を赤くするウルシュナにサーシャは冗談めかしてウインクしてみせたけど実は9割方本気である。

 残りの1割はそろそろウルシュナも疲れてきてボロが出たりするかもしれないとか知り合いのそばにいた方が気楽でいいだろうという気遣いからきている。


 サーシャは引きつったような顔をしてジケに手を出すなよと目で訴えるルシウスを引きずって他の貴族とご挨拶に向かった。

 貴族は大変である。


「むぅ……」


 落とす云々は忘れることにしてウルシュナはまたリンデランに年を送る。

 するとリンデランは何かを察したようにウルシュナの方に振り向いた。


 パァッと笑顔を浮かべて小さく手を振り、ウルシュナも手を振りかえす。

 しかし滅多に社交場に出てこないパージヴェルとリンディアが来ているものだから声をかける人も多い。


 なかなかリンデランもそんな中で抜け出してジケたちの方に来ることができなかった。

 貴族って大変だなと思っているとジケに声をかけてくる人もいた。


 貴族のようなちゃんとした挨拶を交わすわけではないがみなジケの手腕を褒め、次にどんなことを考えているかなんて聞き出そうとしてきた。

 少しは注目度も高くなったのだなと思うのと同時に面倒な会話をけしかけられるようになったとジケは小さくため息をついた。


「ウーちゃん!」


 ジケたちに気がついたリンディアがリンデランのことを送り出してくれた。

 パージヴェルもジケを見て一瞬渋い顔をしたけれど他のやつよりよほどジケの方が信頼できる。


 何か言いたげな視線を少し向けていたがリンディアに脇腹をこづかれて仕方なく貴族のご挨拶に戻った。


「リーデ!」


 もう周りには知り合いしかいない。

 ウルシュナはいつものように砕けた笑顔をリンデランに向けた。


「ジケ君たちもご機嫌麗しゅう、です」


「うるわしゅー」


「リーデちゃーん!」


 リンデランがスカートを摘んでお辞儀する。

 ウルシュナもしっかりできていたのだけどリンデランの方がやはり様になっている感じがある。


 タミとケリもリンデランの真似をして貴族っぽくご挨拶を返す。


「元気そうだな」


「もちろんです」


 ジケを見てリンデランは笑顔になる。

 ジケたちが身につけているものよりも淡い青色のドレスを身につけているリンデランはいつもよりも大人っぽい。


「まあ……まさかアユインがねぇ」


「分かってただろ?」


 アユインは王族だった。

 ジケがアユインと出会った当初はリンデランとウルシュナもそんなことを知らなかった。


 しかし事件に巻き込まれて王様やロイヤルガードが動いてアユインを助けに来たことからハッキリと言われなくてもアユインの正体を二人も察していた。

 ただそれで態度を変える二人でもない。


 アユインもバレたかもしれないと思っていた当初はよそよそしかったらしいがいつの間にかまた三人友達に戻っていた。

 まさか、なんてウルシュナは言うけれど実際のところはもう分かっていた話である。


 というかアユインもどこかの時点からあまり隠してすらいなかった気がするとジケは思う。

 ジケの前だけなのかリンデランとウルシュナの前でもそうなのかは知らないけれども。


「それでも私は変わらないけどさ」


 王になってしまえば関係性は変わらざるを得ないかもしれない。

 しかし実際に王様にならない限りはそんなにかしこまることもないとウルシュナは軽く考えている。


 アユインもそれを望んでいるだろう。


「それよりもプレゼント用意した?」


 今回は王様の子供の生誕も祝う。

 そしてアユインも社交界デビューということで暗黙の了解としてプレゼントを持ってくるのが常識というものである。


「もちろん用意したよ。なかなか大変だった」


「へぇ〜偉いねぇ」


「何をご用意したのですか?」


「それぞれ使えそうなもんをね」


 結構苦労してプレゼントも用意した。

 でもやっぱり華やかさとしては貴族っぽくはないので気に入ってもらえるかは心配だ。

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