王女じゃなくアユイン1
ドレスも最終的な調整を加えて、慌ただしく日々を過ごしている間にパーティーの日が訪れた。
ミュコは歌劇団の方と一緒に向かうことになり、ジケたちとは後で交流することになった。
ジケとエニ、そしてタミとケリは馬車に乗って王城に向かっている。
御者台にいるのはリアーネとユディットで今日の馬車は馬が引いている。
みんなシェリランが作った礼服やドレスを身につけ、歌劇団の人たちが事前に髪を整えたりしてくれた。
「ふふ、いい感じじゃないか?」
ジケはシェリランに注文をしていた。
フィオスにも服を用意してくれと。
難しい注文だと思う。
魔獣に服というのも珍しい話である上にトゥルンとしたスライムに装飾品を付けるなんてことも聞いたことがない。
だがシェリランはやり遂げた。
フィオスの上の方にはフィオスをデフォルメした髪飾りのようなものがつけてあり、ボディーに巻き付けるようにして重厚なマントを身につけていた。
ジケの要望に応えてシェリランは上手くフィオス用のお洋服を作ってみせたのである。
ちなみに髪飾りやマントの後ろにクモノイタを細く切って取り付け、フィオスに貼り付けることによってズレや落ちることを防止している。
非常にナイスなアイディアだとジケも感心していた。
王城の前には馬車が並んでいて来客の確認をしている。
「失礼します。招待状の確認をしております」
馬車の窓が軽くノックされて開くと王城の兵士が敬礼して用件を伝えた。
「フィオス商会です」
ジケが窓から招待状を渡す。
「フィオス商会のジケ会長様ですね。失礼いたしました。お通りください」
招待状を確認し、馬車のフィオス商会の刻印を見た兵士は軽く頷いて丁寧に招待状を返した。
「ご苦労様」
ジケはニコリと笑って招待状を受け取って、馬車は王城の敷地の中に入っていく。
馬車が止まってジケが一番先に降りる。
立場的にはジケが一番偉いのかもしれないけれど御者をしているユディットを除けば男性はジケだけになる。
先に降りたジケが手を差し出して女性陣が馬車を降りていく。
「リアーネはそのままついてきて。ユディットは馬車をお願い。後で合流して」
「分かりました」
パーティーの会場となっている王城のホールにはもうすでに多くの人が集まっている。
メインの内容は王様の新しい子供が生まれたことの発表ではあるが、アユインの正式なお披露目の場も兼ねているのでアユインに近い年齢の貴族の子供も見られた。
シェリランが作ってくれたおかげで青い礼服を身につけたジケたちは多少視線を集めていた。
女性はともかく男性は黒を基調と服装が多い中でブルーを基調とした礼服は珍しいので目立っても仕方ない。
それだけじゃなくエニやタミとケリに見惚れている貴族男子や美しい令嬢たちに感心したような視線を向けている紳士もいた。
婚約者ときているのかエニに見惚れて隣の女の子に怒られている子を見てジケも気持ち分からなくないなと思った。
薄汚れた貧民街でもエニは可愛らしかった。
ドレスを着て髪をとかして、薄くメイクを施したエニは貴族の令嬢にも負けていない。
「ジケ!」
「おっ、ウルシュナじゃないか」
壁際でパーティーが始まるのを待っているとジケたちを見つけたウルシュナが歩いてきた。
後ろにはルシウスとサーシャの姿も見える。
「ご機嫌麗しゅう?」
ウルシュナはスカートをつまみご令嬢らしく挨拶する。
相変わらず外ではお淑やかご令嬢を装っている。
「こっちは変わらずだよ。ウルシュナも元気そうだな」
ただジケはいつも通りウルシュナと接する。
「……なんか、似合ってらっしゃいますね」
ウルシュナもパーティー用の格好をしているのだけどいつもと違っているのはジケも同じ。
青を基調とした礼服に整えられた髪、普段から鍛えているために姿勢も良い。
ウルシュナまで加わって美少女軍団となったジケたちを周りの男子は締まりのない顔で見ているが、ジケはウルシュナのことをそんな目で見ない。
少しだけ見ろよと思う時もあるけれどそんな目で見ないことはウルシュナにしてみればジケの良いところでもある。
「ありがとう。ウルシュナも似合ってるぞ」
ほんのりと頬を赤く染めるウルシュナは白いドレスを着ている。
母であるサーシャの血を継いで褐色肌に近いウルシュナは白がよく似合う。
「フィオスもすごいわね」
ジケが抱えるフィオスを見てウルシュナは目を丸くした。
まさかフィオスまで着飾ってくるなんて思いもしない。
しかも意外と可愛らしい。
「そうだろ?」
ジケも誇らしげだがウルシュナにはフィオスもなんだか誇らしげに見えた。
「リンデランも来てるはずだけど……」
アユインの友達であるウルシュナが呼ばれているのだ、もちろんリンデランの方にも招待状は来ている。
なのでリンデランも来るはずなのだけどとウルシュナは会場を見回す。
「あっ、いた!」
ウルシュナが離れたところにいるリンデランを見つけた。
パージヴェルとリンディアもいて知り合い貴族と挨拶を交わしているようだった。
大きく手を振って呼びたいところだけど周りの目がある。
正確には周りというよりサーシャの目ではあるのだけどここは気づくまでジッとリンデランの方を見ることにした。
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