全力でドレス作らせていただきます

 時間が空いたのでフィオスの特訓をしていた。

 剣になったり槍になったりとフィオスが次々と形を変えていく。


 フィオスの変形スピードもかなり速くなってきて変幻自在の天才スライムとなっている。


「ほっ!」


 フィオスがなれるものは武器だけではない。

 ニュルンとジケの腕に巻き付くようにして体の方に移動する。


 そしてジケの首に巻きついてフィオスは体を広げていく。

 青い半透明な不思議なスライムマントの出来上がり。


 今のところマントになれて実用性は皆無であるが何がどこで役立つかは分からない。

 何でもできるようになっておく。

 

 今度は腕に巻き付いてガントレットになったり頭に乗っかってヘルムになったりもする。


「よーしよしよし!」


 一通りいろんな形になって最後にいつものスライムフィオスに戻る。

 よくできました! とフィオスを撫でてあげると嬉しそうに体がプルプルと揺れる。


「ジーケ」


「なんだ、ミュコ?」


「お客さんだよ」


 たっぷりとフィオスのことを可愛がっているとミュコが部屋を覗き込んでいた。


「私もフィオス撫でていい?」


「いいぞ」


 ジケはミュコにフィオスを渡して家のリビングに向かう。


「誰がきたんだ?」


「シェリランさんだよ」


「シェリランさんが? 何だろ?」


 二階の部屋から降りて一階に行くとすぐに入り口横に立っているシェリランが見えた。

 一見すると人でも殺せそうな顔をしているが多少の付き合いもできたジケには分かる。


 どうやら相当上機嫌なようだ。

 凶悪な顔をしているけれどそれがシェリランなりのスマイルなのである。


「シェリランさん」


「会長殿!」


 ジケが来るとシェリランのスマイルがさらに凶悪さを増した。

 精一杯のスマイルなのでジケも笑顔を返しておく。


「今日はどうしたんですか?」


「お礼を申し上げたく思いまして」


「お礼ですか?」


 ジケは何のことか分からず首を傾げる。


「先ほど注文していた布が届いたのです」


「ああ、あれですか」


 先日ジケはリンディアに頼まれてシルウォーという魔物を守った。

 その代わりにシルウォーから採れた素材で作られた布をお安く卸してもらうことになっていた。


 思っていたよりも早く布がシェリランのところに届いたようだ。


「ロイヤル品質の布がいくつか届きました」


「ええ、特別にいただいたんですよ」


 今回のことの経緯を聞いたリンディアが10回目のシルウォーの繭から作られたロイヤル品質の布を特別にただで送ってくれることにしてくれた。

 お金を払うと言ったのだけど返せる恩は早いうちに返しておくのよと言われて厚意に甘えることにした。


「感謝を……述べたくて……」


「ええっ……」


 凶悪スマイルを浮かべたままシェリランは涙を流し始めた。

 もうジケにはシェリランの感情がどこにあるのか分からない。


「ロイヤル品質の布は私が貴族であった時にも手に入りませんでした。よほどヘギウス商会に太いパイプがあるか、広く服飾関係の仕事をしていて付き合いがないと手に入れることはできないのです」


「そうなんだ……」


「ありがとうございます」


 リビングにいたエニとミュコが泣きながら笑うシェリランにドン引きしている。

 ちょっと目に優しくない光景なのでジケはポケットからハンカチを取り出してシェリランに渡してあげた。


 すると上品に涙を拭う。


「いつかロイヤル品質の布でドレスを作ることが夢でした。ありがとうございます。ぜひお礼を伝えたくて今日はお訪ねしたのです」


「そうですか……よかったですね。ロイヤル品質の布もたまたま手に入ったんですよ」


「良いドレスを作ってみせます。期待しておいてください!」


 良い布が手に入ってシェリランはやる気に満ち溢れていた。


「このシェリラン、会長殿のご期待を決して裏切りません!」


 よほどロイヤル品質の布が嬉しかったのかシェリランの圧がいつもより強い。


「うん、まあ期待してるよ」


「それでは早速作業に取り掛かってまいります!」


 いつもの凶悪スマイルを消して真面目な表情を浮かべるシェリランは飛び出すように家を出て行った。


「うーん……なかなか嵐みたいだったな……」


 どこまで行っても悪い人じゃない、みたいな感じなのがシェリランの評価になる。

 良い人なんだろうけど良い人感が出ない。


 表舞台に出ないで服を作っているのがシェリランの性にも合っているのかもしれない。

 少なくとも服を作ることに関しては人一倍真面目なことだけは伝わってくる。


「良いドレス、作ってくれそうだな」


 ジケはいつの間にか足元にいたフィオスを拾い上げる。

 色々変形トレーニングをしたせいかフィオスはほんのりと温かくなっていたのだった。


 ーーー第十二章完結ーーー


ーーー

後書き


これにて第十二章完結となります!

第十二章って自分で思ってよりも話進んでてちょっと驚きました。


物語はまだまだ続きます。

現在小説版の2巻が予約開始しておりますのでよければ予約していただけると嬉しいです!


中身の大筋は変わらないのですがそのままでは8万字ちょっとぐらいしかなかったので4〜5万字ほど加筆しております。

つまり1/3ほどは書き下ろし!みたいな感じです。


新しく読む方にもこうしてWeb版読んでいただいてる方にも楽しんでいただければと思います。

コミカライズも進行中です!


あとはラノベニュースオンラインアワード2024年5月刊行の部門に私の小説が入っているのでご投票でもいただければ嬉しいです!

投票は28日までなのでよければ!


いつも小説を読んでくださりありがとうございます!

本当に感謝しています!


予約、または投票をお願いします!

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