ロイヤルな手触り
「ありがとうございました。ジケさんたちがいてくださらねばシルウォーたちは守れなかったです」
10回目のシルウォーは想定よりもかなり早く繭から出てきて飛び去ってしまった。
ちゃんと出てきたので10回目のシルウォーは無事であったが戦いの余波によるストレスでダメになってしまったシルウォーもいた。
それでもジケたちが鳥の存在に気がついて止めてくれねば10回目のシルウォーも含めて繭ごと全て全滅していた可能性もある。
「守るために来たんです。お礼なんて大丈夫ですよ」
ジケはジケのやるべきことをやっただけである。
そんなにかしこまられてもちょっと困ってしまう。
「おかげで10回目の繭も回収できました。それにクイーンでしたので次回からはあの子がここに卵を産みにきてくれるでしょう」
10回目のシルウォーを守りたい理由はここにもあった。
完全な成体に至った雌のシルウォーは見た目からクイーンと呼ばれる。
ただ良い繭を残してくれるだけじゃなく10回目を乗り越えたクイーンは卵も産んでくれるのである。
またしばらくこの地でシルウォーが繁殖し繭を作る。
そうした面でも10回目のシルウォーは大事なのだった。
「これが10回目のシルウォーの繭からできた糸だ」
ケトイがテーブルにまとめられた糸を置いた。
真っ白で見ているだけでも艶やかさがある。
「わぁ……気持ちいいです」
糸に触れたリンデランが感嘆の声を漏らした。
手触りがいい。
なめらかで、ずっと触れていたくなるような手触りであった。
「本当だ……」
「確かに普通の糸とは全然違うな」
エニとジケも触って驚く。
「10回目は特別柔らかく手触りがいいんだ」
「これをさらに加工して布を作っていくんです。10回目のシルウォーの繭から作られた布はロイヤルと呼んで、欲しがる人も多いのですよ」
「確かにこれで布を作ったら気持ちいいだろうな」
思わず糸を触ってしまう。
「……もちろんフィオスが一番だよ」
ジケが糸を触っているとフィオスが寄ってきてジケの手に体を伸ばしてきた。
自分の方がいいでしょ、という可愛らしい嫉妬である。
ジケが笑って撫でてやるとフィオスは体を嬉しそうにプルプルと揺らしている。
フィオスと糸では手触りのタイプが違う。
当然フィオスの方がいいけれど糸は糸で気持ちいい感触なのは間違いない。
「ロイヤルが出たとなれば欲しいという要望が多く寄せられるでしょうね。ですが今回は優先的にジケさんのところにいくつかロイヤルを回します」
「いいんですか?」
「ええ、助けていただきましたから」
そんなにいい布を手に入れることができたなんてシェリランが凶悪な顔をして笑うのが目に浮かぶようだ。
「あとまだ残っているのは回数の少ない繭だけです。一番大きな山場は抜けたので私たちだけで対処できると思います。今回はご協力ありがとうございます」
ダスーミャとケトイが席から立ち上がって大きく頭を下げる。
「そんな……こちらも依頼された仕事ですし」
ジケの方も利益があったからやったことである。
相手に感謝することは必要でも必要以上に感謝されるとどうしていいか分からなくなる。
「この後繭から作られた糸を町まで運びます。お帰りになるついでにその護衛もやっていただいていいでしょうか?」
「はは、もちろんです」
ダスーミャもちゃっかりしているとジケは笑った。
その後、荷物いっぱいに糸を詰め込んだヘギウス商会の人たちを護衛してジケたちは近くの町まで向かった。
町には糸を布に加工する工場があって、そこで布にしてから一度首都にあるヘギウス商会の本部に運ばれるのである。
ただ糸を布にする作業も時間がかかる。
ジケたちは糸を送り届けたところまでで仕事を終わりとして家に帰ったのだった。
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