シルウォーを守れ4
フィオスソードとレーヴィンの双剣になったジケは鳥の足を切りつける。
ギェェエエィと叫んで鳥のバランスが崩れて倒れる。
「ジケ!」
「大丈夫だ! 二人とも頼む!」
危うく潰されかけたが鳥の下から上手くジケが抜け出してきた。
「いくよ、リンデラン!」
「分かりました、エニちゃん!」
無様に倒れた鳥は起きあがろうと翼をバタつかせている。
「そのまま寝てろぉ!」
ジケはエニとリンデランの魔法で鳥を仕留めてもらうつもりである。
起きあがられると面倒なのでこのまま転がっていてもらいたい。
翼を使って体を起こそうとしているのでジケは翼を切りつける。
再び鳥がドスンと地面に倒れる。
「はああああっ!」
「やああああっ!」
エニとリンデランが魔法を放つ。
二人が息を合わせて撃ちだした魔法は火をまとう氷という不思議なものになった。
熱かったのか、冷たかったのか。
少しだけ聞いてみたいなと思いつつ魔法が直撃して鳥がぶっ飛んでいく。
「意外と丈夫だな」
植物のドームを突き破って外にぶっ飛んでいった鳥をジケが追いかける。
胸に大きな傷と火傷を受けた鳥だったがまだ死んではいなかった。
「運が悪かったな。今日は俺たちが守ってたんだ」
ジケたちがいなかったら上手くラッドブたちを囮にしてシルウォーにありつけていたかもしれない。
けれど今日はジケたちがいた。
まだまだ未熟なジケたちだけど意外と強い。
鳥のシルウォーを狙うという目論みは完全に失敗に終わった。
「あばよ!」
飛び上がって剣をクロスさせたジケは鳥の首を一気に切り裂いた。
鳥が大きくて切断はできなかったけれどかなり深く首を切り裂かれて鳥は動かなくなった。
「ふぅ……」
鳥の処理はヘギウス商会の人に任せよう。
プルルンボディーに戻ったジケは植物のドームの中に戻る。
「ジケ!」
「ジケ君!」
「おう、二人ともよくやったな!」
バラバラではなく協力して魔法を放つことで鳥を瀕死の状態まで持っていた。
炎と氷という相反する属性の魔法なのに二人の卓越した魔法のコントロールが互いを打ち消すことなくむしろ威力を高めたのである。
ジケはエニとリンデランとハイタッチして勝利を喜ぶ。
「ジケさん!」
中に別の魔物が入り込んだと聞いてダスーミャが慌ててやってきた。
「申し訳ありません……ボスラッドブが粘るので気づかず……」
「大丈夫ですよ。そちらは終わりましたか?」
「大体倒し終えました。ひとまず乗り越え……」
「全員動くな!」
襲撃に訪れた魔物は倒した。
もう安心だと思った瞬間ケトイが声を張り上げた。
「10回目が出てくる……」
10回目のシルウォーの眉がモゾモゾと動いている。
同時にすごく強い魔力をジケは繭から感じ始めていた。
ヘギウス商会の人たちの顔に緊張が走る。
シルウォーは弱い。
ただしそれは10回目以前の話。
10回にも及ぶ繭ごもりを経て少しずつシルウォーは完全な成体へと至る。
これまでは狙われやすい魔物であったのだが10回目を乗り越えたシルウォーは強くなって狙われることが少なくなる。
気性が荒いということはないがそれでもシルウォーは天然の魔物で何があるか分からない。
もしかしたらジケたちと敵対する可能性もあるのだ。
シルウォーを刺激しないようにジケたちは動きを止める。
「王冠……クイーンだ」
シルウォーは雌雄の判別が難しい。
慣れているヘギウス商会の人でも外見からではほとんど判別できない。
ただし10回目になるとハッキリする。
10回目を乗り越えた雌の個体は頭の上に冠のような飾りができるのである。
すでにほぐされている繭の上部から出てきたシルウォーの頭には王冠にも似た不思議な飾りが頭に生えていた。
「フィオス!」
フィオスがジケの手から飛び降りてシルウォーのところに跳ねていった。
その場にいた全員の緊張が高まる。
繭から出てきたシルウォーはジケたちのことを一度見回して、次に近づいてくるフィオスに視線を向けた。
まるで他の魔獣たちにやるようにフィオスはシルウォーの前で跳ねる。
やはり会話しているようだ、そんなふうにジケは思った。
シルウォーが鳥が空けた植物のドームの穴を見た。
そしてジケを見る。
「シルウォーが……頭を下げた?」
本当に頭を下げたのかどうかは誰にも分からない。
けれどシルウォーはまるで守ってくれたことの感謝を示すかのようにジケに頭を下げた。
そしてシルウォーはゆっくりと羽を広げると飛んでいく。
誰もが呆然としてシルウォーを見送った。
フィオスだけが高く飛び上がって10回という激しい生存競争を乗り越えたシルウォーを祝っているようであった。
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