シルウォーを守れ3

「空!」


「空? ……あっ!?」


 何事もそう簡単にはいかないものである。

 エニに言われて空を見上げると大きな鳥が壁を越えて植物のドームの方に向かっていた。


 シルウォーを狙っていた魔物はラッドブだけじゃなかったのである。

 見ると他の人たちはラッドブと戦っていて鳥の存在に気がついていない。


 ボスラッドブが意外と粘っていて声をかけてもすぐには向かえなさそうな雰囲気もある。


「……仕方ない!」


 時間がない。

 ジケは走って壁まで向かうと剣を振る。


 一瞬にして壁が切り裂かれてジケが通れるぐらいの穴が空く。


「ユディット、ニノサン、ネズミが入らないように防いでくれ!」


 致し方ないとはいえ壁に穴を空けてしまった。

 ラッドブが穴を通って入ってきてはいけないのでユディットとニノサンに穴を守ってもらう。


「私もいくよ! サビオールさん、穴をお願い!」


「……ジケ殿、ミュコを願います!」


 穴に飛び込むジケをミュコが追いかける。

 二人では穴を守るのも大変だろうとサビオールも防衛に加わる。


「ヘレンゼールさん!」


「…………分かりました」


 一方で壁の上ではリンデランがヘレンゼールに目で訴えかけていた。

 リンデランを護衛するヘレンゼールは降りて戦うことなくリンデランのそばにいた。


 私もジケ君を追いかけたいですという視線にヘレンゼールは小さくため息をつきながら頷いた。


「わ、私も行く!」


 リンデランには負けていられない。

 ジケが行くならエニも行く。


「行きましょう!」


 エニがいてくれるならリンデランとしても心強い。


「降りられますか?」


「はい!」


「もちろん!」


 ヘレンゼールが飛び降りてリンデランもエニも続く。


「ほっ?」


 ヘレンゼールがパチンと指を鳴らした。

 その瞬間下から風が舞い上がって二人は柔らかく着地することができた。


「大丈夫ですか?」


「あ、はい。ありがとうございます」


 ヘレンゼールが魔法を使って危なくないようにしてくれたのだとエニもすぐに気がついた。


「では参りましょう」


 エニとリンデランはジケの背中を追いかけて走り出し、ヘレンゼールはその後をついていく。


「あの鳥ずるいことしやがって!」


 エニたちの先を行くジケには鳥が植物のドームの方に降りていくのが見えていた。

 ラッドブと戦い始めたのを待って襲いに来るとはとてもズル賢いやつである。


 ジケがシルウォーのところについた時鳥は植物のドームを足で引きちぎるように開いて中に入ってきていた。


「やめろ!」


 鳥が10回目のシルウォーの繭に迫る。

 ジケは盾になっていたフィオスに槍に変形してもらうと鳥に向かって投げる。


 槍が突き刺さって鳥がぎゃあと鳴く。


「手は出させないぞ!」


 鳥がひるんだ隙にジケが鳥の前に立ちはだかる。

 フィオスを手元に再召喚してまた盾にする。


 やたらと目がギョロッとした鳥でジケが見上げるほど大きい。


「くっ!」


 邪魔されたことに怒りの声を上げた鳥がくちばしでジケを攻撃する。

 フィオスの盾で受け流したけれど鳥も大きいためか力が強い。


 防御はダメだとジケはすぐに回避に切り替える。

 かわしながらくちばしを切りつけると浅く傷がつく。


 簡単に切り裂けるとは思っていないけれどやっぱりくちばしは硬くて攻撃で狙うべき場所ではなかった。


「ジケ!」


「ジケ君!」


「エニ、リンデラン!」


「助けに来たよ!」


「ジケ君から離れてください!」


 エニとリンデラン、ヘレンゼールも駆けつけた。

 リンデランが魔法で大量の氷を生み出して撃ち出す。


 鳥は一度大きく羽ばたいて後ろに下がって氷をかわした。


「何かするつもりだ!」


 鳥が体の前で翼をクロスさせた。


「ジケ、下がってて!」


 鳥は一気に翼を広げて羽を飛ばした。

 エニは対抗するようにジケの前に炎を壁を作り出した。


 炎の壁に当たった羽は燃えてなくなる。


「ジケさん、基本はあなたに任せましたよ」


「ヘレンゼールさん」


 いつの間にかジケの隣に剣を抜いたヘレンゼールが立っていた。

 ヘレンゼールは炎の壁が消えると同時に鳥の前まで走っていく。


「あの人……何者なんだ?」


 鳥がヘレンゼールにくちばしを振り下ろした。

 ヘレンゼールはくちばしを剣で受けるとそのまま弾き返した。


 魔物らしい力があった鳥の頭が押し返されて上に向いた。

 どんな力していたらあんなことできるのだとジケは驚く。


 ニノサンの高速攻撃を初見から見切っていた時点で只者ではないと思っていたけれど改めて見るととんでもない人である。

 ジケに任せるだなんて言わないでヘレンゼール一人でも解決できそうな気がする。


「……分かりましたよ!」


 くちばしを弾き返したヘレンゼールがジケの方を振り返った。

 細い目は普段どこを見ているのか分からないけど今はジケを見ていることが分かる。


 ヘレンゼールはあくまで手助けだけで自分で倒すつもりはないようだ。

 鳥が頭を戻すと走ってくるジケが見えた。


「ダメですよ」


 ジケに向かって突き出されたくちばしをヘレンゼールが横から剣で突いて弾き飛ばす。

 そのままジケは駆け抜けて鳥の足元まで潜り込む。


「フィオス!」


 フィオスがジケの求めに応じて剣の形となる。

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