シルウォーを守れ2
だから鳥や飛ぶタイプの虫と比べれば地上でしか戦わない分楽なのだが、今回はそう簡単じゃなさそうだとダスーミャは思った。
「なーんかデカイのいない?」
「うん、なんかデカいね」
「なんでしょうかアレ……」
上から見ていてもおかしなラッドブが一体いる。
人の大きさほどもある大きなネズミがラッドブなのであるが一体だけ周りのものよりも明らかに大きな個体がいる。
ミュコ、エニ、リンデランは壁の上からそのデカいラッドブを見て顔をしかめている。
デカいとより顔がはっきりと見えて可愛くないのだ。
「ボスとなる個体ですね。明確なリーダーがいないことも珍しくはないのですが逆にああして分かりやすすぎるリーダーがいるのは珍しいですね」
デカいラッドブはラッドブたちのリーダーとなる個体である。
当然リーダー個体であるということは群の中でも強いということになる。
さらにリーダー個体がいると作戦とまでいかなくともある程度統率が取れたような動きをすることもある。
そうした点で通常よりも厄介な集団になるのだ。
「まあそれほど変わりはしないとは思いますが警戒するに越したことはありません」
ラッドブたちは声を上げて壁を突破しようとガリガリと噛んでいる。
このまま放置しておけばそのうち穴が開けられて中に入ってシルウォーを荒らしてしまうだろう。
「ジケさんたちは通常の個体をお願いします。私たちがボスラッドブを倒します」
流石にジケたちにボスラッドブを倒せとは言わない。
ジケたちは普通のラッドブを倒していくことになった。
「魔法を使われる方はこのまま壁の上から撃ってください」
下りて戦うよりも見渡せる位置から魔法を使った方が強い。
エニやリンデランといった魔法使いは下りずに上から魔法で戦い、ジケたちは下りて戦う。
「ミュコ」
「私もやるよ!」
「ああ、それはいい。だけど俺から離れないでくれ」
「あ、うん……」
やはりミュコは心配なジケ。
やる気を見せているし止めることはしないけど助けに行ける範囲にいてほしい。
ジケに真面目な顔で見つめられてミュコは頬を赤くする。
お目付け役のサビオールもいるので大丈夫だと思うけれど戦いにおいて何が起こるかは分からない。
「それでは魔法お願いします!」
まず最初の一撃は壁の上から魔法を放つ。
エニとリンデランも魔力を高めていつでも魔法を放てるように準備する。
「いきますよ! 撃ってください!」
「やっ!」
「はぁっ!」
ダスーミャの号令で魔法使いたちが一斉に魔法を放った。
普通のラッドブに任せて後ろにいたボスラッドブが一瞬早く攻撃に気がついて鳴いた。
壁をかじって穴を開けようとしていたラッドブは蜘蛛の子を散らすように壁から離れて逃げる。
回避が間に合わなくて魔法を受けたラッドブもいるけれどジケが期待していたほど魔法で倒せなかった。
「それじゃあ行くぞ!」
剣を抜いたジケが飛び降りてみんなもそれに続く。
「魔法で弱ったやつから倒すぞ!」
魔法で倒せたラッドブもいるけれど魔法で倒しきれなかったラッドブの方が多い。
まずは魔法でダメージを負ったラッドブから倒していく。
みんなで一体のラッドブを狙っていく。
背中にリンデランが放った氷が突き刺さっていて、痛みのためか怒ったような目をしている。
「はっ!」
ジケは突進してくるラッドブをかわしながら切りつける。
「私も!」
足を切りつけられて動きが鈍ったところでミュコもラッドブに切りかかった。
「どうだぁ!」
ジケは上手いと舌を巻く。
ミュコではなくお目付け役のサビオールの方だ。
切りかかるミュコにいかないように細かく槍で突いてサビオールがラッドブの注意を引きつけた。
ミュコはそのことに気づかずラッドブをざっくりと切り裂いて、どうだというドヤ顔をジケに向けた。
大切にされているなとは思うけど切られた傷を見れば深くしっかりと切り裂いてはいる。
魔物に対して怖気付かないで踏み込んで攻撃できているので大したものだとは思う。
「ずるいぞ!」
「早い者勝ちだ」
最後はニノサンの件によってラッドブが倒れる。
一筋の光のようなニノサンの攻撃は容易くラッドブを切り裂いた。
出番がなかったとユディットは怒るがまだまだラッドブはたくさんいる。
「おりゃー!」
「次はあいつ狙おう!」
エニが壁の上から火を放った。
直撃は避けたが尻尾の先に火がついてしまったラッドブは地面を転がって鎮火を試みている。
隙だらけなので地面を転がるラッドブを狙う。
「火を消してあげようか!」
今度こそはと飛び出したのはユディットだった。
転がるラッドブの尻尾を切り落とす。
「私もできるんですよ!」
尻尾を切り落とされた痛みで叫ぶラッドブの上に氷塊が落ちてきて押し潰した。
ジケたちの動きを見ながらリンデランも隙をうかがっていた。
絶妙なタイミングでの魔法である。
「……そんなに苦労もなさそうだな」
ラッドブはそんなに強くない。
周りで戦っている感じを見ても聞いていたより警戒しなくても倒せそうである。
「ジケ!」
「エニ、どうした?」
このまま倒していけば問題なくシルウォーを守れる。
そう思っていたらエニが緊迫したように叫んだ。
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