第十三章

トードスマイルの本気1

 ちょいちょいとシェリランのところに呼ばれて服の試着や調整を繰り返しながら王族のパーティーの日は近づいていた。

 ジケは自分のものはどうなっているのか知っているが女の子たちのドレスがどうなっているのかは秘密だと言われて知らされなかった。


 ただジケもドレスを待っているだけじゃない。

 パーティーに持っていくためのプレゼントを考えて色々と準備したりもしていた。


 町の中はパーティーが近づくにつれて次第に活気付いて来ていた。

 直接町中にまで赴いたり生まれた子を見せたりすることはないのだが子供の生誕を祝うために町でもお祭りが開かれることになっているからだ。


 費用なんかも国から大きく補助されるのでみんな喜んでお祭りの準備をしている。

 ただジケは招待されているので町のお祭りの方ですることはない。


 数日行うそうなので遊びに行くことはあるかもしれないけれど。

 その代わりと言ってはなんだがジケは商会の方も忙しかった。


 気づけば木材関係の供給も安定してきたので新規での馬車の予約も再開したのだ。

 するとパーティーもあって人が集まる時期だったためにご新規さんで注文したいという人や追加で注文したいという人も意外とやってきていたのだった。


 すでに売った人に対する馬車の調整やパロモリ液による加工は行っていたのでそちらの方は多少落ち着いていたが、それでもジケがちょっと手伝わねばならないほどに忙しかった。

 パーティー、お祭り期間中とその前はフィオス商会はお休みにすることにしたので早めに商会はお休みの札をかけることになった。


「似合ってるじゃないか」


「ありがとうございます。……ですがよかったのですか?」


 シェリランは頑張ってくれた。

 パーティー前にしっかりと衣装を仕上げて完成させてくれた。


 最後に着てみて具合を確かめることになった。

 オシャレだなとジケは着た礼服を見て感心する。


 遊び心もありながら派手すぎない。

 服の所々にはブルーがあしらわれていて、シェリランいわくフィオスをイメージした青らしい。


 モチーフがいいからデザインもいいのかもなとフィオスをあしらったことにジケも満足である。

 ジケとユディットとニノサンが同じ部屋で着替えた後の服を確認していた。


 ほぼ同じデザインなのだがやはりジケのものが一番気合が入っている。

 礼服を着たニノサンは少しだけ申し訳なさそうな顔をしている。


「私はパーティーに行かないのに……」


 申し訳なさそうな顔をしている理由はニノサンはパーティーに行かないからであった。

 連れていこうと思う人を考えると結構大人数になってしまった。


 それにニノサン自身がパーティーに出ることに難色を示したので今回はユディットとリアーネが護衛役としてついてくることになった。

 なのでニノサンはお留守番になるのにそれでも礼服を用意してもらって困惑しているのだ。


「いいって。まだ大きくなるかもしれない俺に比べて、ニノサンはもう体格変わらないだろ? 一つぐらいいい服もっとけばいざという時役立つかもしれないからな」


 何かあるたびに礼服を仕立てるなんてよほど見栄っ張りの貴族しかやらない。

 もう体ができていて体つきの変わらないニノサンもお堅い場所に行くための自分用の服ぐらい持っていてもいい。


 シルウォーの時はニノサンも戦ってくれたのでプレゼントみたいなものである。


「主君……ありがとうございます!」


 自分の部下に礼服を仕立ててくれる者がどれほどいるだろうか。

 しかも使われているのはロイヤル品質の布で着心地も抜群だ。


「それにしてもモテるからパーティーに出たくないってのもなかなか贅沢な悩みだよな」


「ええ、羨ましい悩みです」


「代われるなら代わりたいものですよ」


 ニノサンがパーティーに難色を示す理由は女性に囲まれるから。

 護衛としての役割を果たしたいのにニノサンの顔の良さに惹かれてご令嬢たちがニノサンに声をかけてくるのだ。


 これではジケに迷惑をかけてしまうしニノサン自身もただただ疲れるだけになる。

 周りの男性からすれば非常に羨ましい悩みであると思うのだけどニノサン本人からすれば迷惑な話なのだ。


 ジケ本人を守らなくともジケの家や商会など守るべきものはたくさんある。


「お前だってモテるだろ?」


「僕ですか? 僕にはそんな……」


 実際ユディットがモテない人かと言われるとそうでもない。

 意外とユディットを狙っているなんて人もいる。


 ジケの騎士として貧民街では有名で、給料面ではそこらの平民よりも圧倒的にもらっていて安定している。

 顔もそんなに悪くない。


 最初に出会った時に男色狙いだとユディットが勘違いするほどにはちゃんとした顔をはしている。

 だから熱い視線を送っている子もいるのだけどユディットはジケしか見ていない。


 モテて羨ましいなんていいながら女性を寄せ付けないのはユディット自身に問題があったのだ。

 貴族令嬢たちみたいに取り囲むことはないのでユディットも気づいていない。


「まあ一番おモテなるのは会長でしょうけどね」


「俺が?」


「……本気でそうお思いになられるのはもはや罪ですよ」


「私はこのままでもいいと思いますけどね」


 ユディットがため息をつき、ニノサンは軽く笑う。

 ジケ自身も何をもってモテると言われているのかわかっていない。


 確かに自分の周りには美人な子が多いことは認める。


「お待たせいたしました。女の子たちのドレスアップが完成いたしました」


 ジケたちが離していると部屋にシェリランが入ってきた。

 もちろん服の最終チェックをやっているのはジケたちだけでなく、エニを始めとした女性陣もドレスを着てとうとうお目見えとなっていた。

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