モフモフの虫3
静かにケトイの手元を覗き込む。
まとまるとクモノイタみたいに塊にしか見えないけれど木のナイフでほぐしてみると確かに糸っぽくなってきた。
「中は見るんじゃないぞ。あまり気分の良いものじゃない」
繭になってすぐではなくある程度安定してからとはいえ、あまり繭の中は良い光景とはいえない。
繭の上側を上手く糸が切れないようにほぐすと中が見えないように糸を柔らかく被せておく。
フィオスも軽く体を伸ばして繭の糸に触れていた。
特に溶かすわけでもなく本当に触れただけだった。
ちゃんと分かっている良い子だ。
「こうしておくと勝手に出てくるのさ。まるであっちも理解してくれているような行動だが、向こうは出るのが楽でいいし、こちらは繭がきれいなままでいいっていう関係だからなんでもいい」
繭をほぐし終えると静かに繭から離れる。
「この中に噂の10回目のシルウォーがいるんですか?」
白い繭はいくつかある。
その中に件の狙われている10回目のシルウォーがいるのかとジケは気になった。
「いいえ、この中にはまだありません」
「別の場所に?」
「そうでもありません」
「んー?」
ジケは首を傾げる。
10回目のシルウォーを守ると聞いていたのにいないとはどういうことなのか。
「まだ繭を作っていないのです。警戒心が高くこの辺りに顔を出しては去っていくを繰り返しています。おそらくあと何回か来たら繭を作り始めると思います」
「そうなんですか」
「はい、質問です!」
「なんでしょうか?」
「10回目って分かるんですか?」
ミュコがダスーミャに質問する。
確かにとジケも思った。
どうやって10回目を迎えるシルウォーであるのか判断するのだろうかとミュコの質問を聞いてジケも疑問に思った。
「明確に10回目と書いてあるわけではありません。これまでの経験と観測から推測している感じですね」
「シルウォーは繭にこもるたびに少しずつ大きくなっていく。繭を見てみろ。あっちがニ回目、あっちが五回目だ」
「あー、確かに大きさ違うかも」
ケトイが二つの繭を指差した。
言われてよく見ると繭の大きさが違う。
「それにここからじゃ分かりにくいが繭自体も回数を重ねた方が繭も綺麗に作られているんだ」
あとは生まれた日や何回目かによって再び戻ってくるタイミングなんかもこれまでの積み重ねでなんとなく把握している。
不思議と違う回数のシルウォーはちょっとずつ来るタイミングも違い、同じ回数のシルウォーは同じタイミングで帰ってくるのだ。
こうしたさまざまな要因から何回目のシルウォーなのかを予想しているのである。
「回数を重ねる毎に賢さも高くなって警戒心も強くなる。今回はいつになく警戒心が高い個体がいて……帰ってくる時期的にも他の個体と違う。おそらく10回目だろうということなんた」
「10回目は珍しいんですか?」
今度はエニが質問する。
「ああ、とても珍しいです。回数を重ねる毎に強く賢くなりますがその分強い魔物にも狙われるようになるんです。そのためにどの回数のシルウォーも狙われ、少しずつ減っていきます」
「10回目までなると生き残っている個体はほとんどいなくなってしまうんだ」
自然の中で淘汰されてしまいやすい生き物がシルウォーというものなのである。
それでもヘギウス商会が繭となるこの場所を守るようになって回数を重ねられるシルウォーも増えた方なのだ。
ほとんど無害であることはスライムと変わりないのだけど狙われないスライムと違ってシルウォーはなかなか大変そうだとジケは思った。
「むっ、静かに! あそこの草陰に!」
繭を見ていたケトイの指示てジケたちは慌てて近くの草の陰に身を潜める。
「どうしたんですか?」
声をひそめて繭の方を見るケトイに何が起きたのか質問する。
「出てくる」
隠れてからほどなくして奥側にあった小さめの繭がモゾモゾと動き出した。
繭の中での成長を終えてシルウォーが出てこようとしている。
ほぐした糸の上の部分を押し上げるようにして中から白い虫が出てきた。
「意外と可愛い……」
「ね」
ミュコがシルウォーの姿を見てつぶやいた言葉にエニも呆けたように同意した。
不思議な虫であるとジケは思った。
虫ではあるのだがなんだかふわふわとしている。
あまり嫌悪感の強い見た目ではなくふわふわ白い毛が生えていて可愛らしい見た目をしていた。
「あれがシルウォーです。今出てきたのは3回目ですね」
確かにあまり強くはなさそう。
繭から出てきたシルウォーはしばらく体の具合を確かめるとそのまま飛び去っていった。
最後に空になった繭を回収してジケたちはお屋敷に戻ったのだった。
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