手伝います!1

 10回目のシルウォーが繭になるまで数日以上かかると見られていたけれど思いの外早く繭を作り始めた。

 シルウォーに警戒心を抱かせないように糸取り事業をしている人の中でもベテランたちが交代で監視をして魔物を警戒した。


 実際魔物が来ないということもない話ではない。

 来ないのならそのまま仕事は終わりになるのだしただありがたい。


 ジケはいつもの鍛錬に加えてミュコとも手合わせをしていた。

 明らかに経験不足で動きに応用がきいていないのでジケやユディットが相手になって少しでも経験を積ませることにした。


 ジケやユディットにとってもミュコの戦い方はあまり見るものではなく良い経験になった。


「一回ぐらい勝たせてくれたっていいじゃない!」


 ジケとは実力差がある。

 ユディットの方も最初は押され気味であったけれどミュコの戦い方に慣れてくれば地力の差が出てきた。


 当然のことながらわざと負けてやるなんてことはしない。

 だから負け続きでミュコは拗ねた。


「わざと負けてもらっても嬉しかないだろ?」


「嬉しいもーん」


「本当か?」


「むむ……そりゃわざとらしく負けられたらムカつくけどうまーく負けてくれればいいじゃない?」


「もうちょっとミュコが強くなればそうしてやるよ」


「にゅ〜……」


 上手く負けるというのも簡単ではない。

 あたかも相手が上手で勝ったかのように見せるには相手にもそれなりの技量が求められる。


 下手くそな攻撃を受けて負ければあたかも負けましたという感じになってしまう。

 ミュコの攻撃も割と鋭いとジケは思うので順当に強くなっていけば普通にジケとも渡り合えるようになると思った。


 そうなれば多少手を抜いてミュコに花を持たせてもいい。


「もっかい!」


 ただミュコも諦めない。

 拗ねはするけれどすぐに気を持ち直して再びジケに挑む。


 やめる、なんで言い出さないのはいいことだ。

 踊りに関しても諦めなかった子であるのだから当然なのだけど最後まで諦めないところはジケも好ましく思っている。


「んじゃやろうか……」


 その瞬間ミュコがニヤッと笑った。


「だーれだ!」


 後ろから誰かが近づいてきていることは分かっていた。

 ただ安全な室内であるしそこまで集中して魔力感知を広げていなかった。


 急に後ろから目を隠されてジケは驚いた。

 誰だと一瞬思ったけど声で誰なのか分かった。


「リンデラン?」


「せいかーい、です!」


 目に当てられた手が引いたのでジケが振り返るとニコリと笑うリンデランが立っていた。


「なんでここに?」


「私もジケ君……おばあさまのお手伝いをしたいと思いまして」


 ヘギウス家の跡取りとしていつかはリンデランもリンディアの事業を継ぐ時が来る。

 今のうちから関わって学んでおくのも悪くない。


 なんて言ってリンデランはリンディアを説得した。

 ただ人生経験豊かなリンディアにはリンデランの思惑が手に取るように分かっていた。


 危険はあるものの確かにいつかは経験させておくつもりだったのでリンデランを送り出したのである。

 怪我をして首都まで行っていた一部の人たちに同行してリンデランはこちらに来たのだった。


 どうせならびっくりさせようとこっそり後ろから忍び寄って目を隠して声をかけたのであった。

 周りの人たちは空気を読んで何も言わなかった。


「リンデラーン!」


 ミュコがリンデランにぎゅっと抱きつく。


「ミュコちゃん!」


 リンデランもミュコを受け入れて抱きしめ返す。

 ミュコもジケの後ろにいるリンデランには気がついていた。


 だからニヤリと笑ったのである。


「見てて、今ジケのこと倒すから!」


 鼻息荒く宣言してミュコは手に持った木剣を構える。


「やるか?」


「うーん、ジケ君頑張って!」


「そこ私じゃないの!?」


「えへへ」


 リンデランは少し頬を赤くしながらもジケを応援する。

 友達に裏切られてミュコは頬を膨らましながらジケに切りかかる。


 よく目が回らないなと思う。

 回転を活かした攻撃は戦うたびに鋭くなって、ミュコにも少しずつ慣れが出てきた。


 普段から踊りで回転するからミュコとしても平気らしく段々と動きが速くなっていく。


「わぁ……すごいです……」


 リンデランに良いところを見せたいようだしジケもミュコが最高潮になるまで防御してあげた。

 乗ってきたミュコの攻撃は苛烈で意外と重たい。


「ここだ!」


 隙もないように見える激しい攻撃だがリズムを読んでみると一瞬一瞬で隙がある。


「そう何度もやられないよ!」


 ただそうした隙でやられたことがあるミュコもちゃんと学んでいた。

 ジケが突き出した剣をミュコはステップを変えて回避する。


 変化に乏しくて攻撃を読まれているということはジケたちとの手合わせを通して理解した。

 けれど無理に動きを変えようとすると動きが止まったり足がもつれたりする。


 動きが止まらないようにしながらこれまでと繋がる動きになるにはどうしたらいいかをミュコは考えた。

 習っただけではない自分なりの動き方というものを画策していた。


「やるじゃないか!」


「あっ、ちょ! ずるい!」


 ステップを変えて回避したところはよかった。

 しかしそのせいで攻撃が止まってジケに反撃する隙を与えてしまう。

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