モフモフの虫1
シルウォーがいる土地はヘギウス家が所有している土地だった。
元々シルウォーがいる土地だったのだがそこに目をつけたリンディアが周辺土地を買い上げた。
土地を持っていた貴族を調べたところたまたま借金があったので肩代わりする形で土地を買い、シルウォーの繭から布を作っていた人たちも全員ヘギウス商会で雇い上げている。
ただ周りに何をしているのかバレないように名目上はヘギウス家の療養地となっている。
だからシルウォーの生息域の手前にはひっそりと屋敷も建ててあった。
「お待ちしておりました。お話は聞いております。この屋敷の執事長のジーブトと申します。何かご用ありましたら何なりとお申し付けください」
屋敷につくと執事であるジーブトが出迎えてくれた。
渋い老年の執事ジーブトはうやうやしく頭を下げるとジケたちを部屋に案内してくれた。
ジケたちは一人一部屋与えられた。
他の人たちは都合上相部屋だったりするので少し申し訳なさを感じる。
「それではご説明させていただきます」
各自部屋に荷物を置いてジケたちは一つの部屋に集められた。
今回何をやるのかより細かな話をジーブトが説明してくれる。
「皆様にはシルウォーの繭を守っていただきたいのです」
実はジケたちがお願いされる前にも繭になった個体がいた。
その時にも魔物の襲撃にあって怪我人が出てしまったために今回ジケたちにもシルウォーを守るようにお願いされたのであった。
「シルウォーは繭になっている時が一番無防備なのでその時を狙って魔物がくるのです。特に今回は10回目なので」
「10回目……ってなんですか?」
ピッと手を上げてミュコが質問する。
「シルウォーは10回繭にこもります。その度に大きく強くなる。そして最後の10回目はシルウォーにとって大きな意味を持つのです」
「大きな意味?」
「繊細で、繭にこもっている間に襲われることも多いシルウォーが10回目を迎えることは多くありません。無事に10回目を迎えたシルウォーは王となるのです。完全成体となりメスならば再びこの地に卵を産みに来る」
10回もの回数繭にこもって成長を繰り返すことでようやくシルウォーは本当の意味で成体となれる。
そのシルウォーがオスかメスかは繭から出てくるまでまだ分からないけれど、メスならば産卵期に自分が成体となった場所で産卵するのである。
つまり10回目の繭を乗り越えたシルウォーを守ることでこれから先もこの地でシルウォーが産まれ続けるということになる。
シルウォーにとっても、人にとっても10回目とは重要ということなのだ。
「さらには10回目の繭の糸は非常に品質が良いのです」
シルウォーの糸をとる人の間では“じゅういち”という言葉がある。
11ではなく10、1である。
10回目の糸が一番良く、次に1回目の糸が品質が良いという意味。
このことも10回目の繭を守りたい大きな理由でもある。
「良い布を作るためにも繭を守らねばなりません」
「ふぅーん、なるほどね」
繭を守り切った先には布があり、そしてドレスになる。
自分たちのためでもあることをエニは理解した。
「ただ最近は敵も強くなってきまして……」
ヘギウス商会で保護しているということはシルウォーたちも繭にこもっていても安全ということになる。
回数を重ねたシルウォーの方がより良いエサになるために魔物に狙われやすくなる。
そのために襲いかかってくる魔物も強いものが混ざりやすくなってきた。
だから怪我人が発生し、ジケたちにも話が回ってきたのである。
本来なら致し方なくシルウォーを襲わせることもあるのだけど、今回は10回目を迎える個体がいるので細心の注意を払いストレスを与えないためにシルウォーのエサ場も荒らさせないようにしていたのだ。
「じゃあ魔物が出たら俺たちも出ればいい感じですかね?」
「基本的にはそのようになります。魔物が出ないということもありますのでその時でもご協力いただいたご恩はお返しします」
「分かりました。いつでも出られるように準備しておきます」
「こちらにいる間不自由はさせません」
ひとまずこれで何をすればいいのかは分かった。
多少へんぴな土地ではあるがジーブトがしっかり身の周りのお世話をしてくれるようなのでジケも戦い以外のことでは心配もなさそうだと感じた。
ーーーーー
糸を取る作業を見学しないかと誘われたのでちょっと見てみることにした。
「でもさ、魔物から布ができるってなんか不思議だよね」
皮を剥いで加工して革にするというのなら分かるけれど魔物が出したものを加工して糸にし、そこから布にするというのがちょっと不思議だとミュコは感じている。
普段平民や貧民が着るような服は植物からできている。
ジケが聞いたところでは似たような素材出す魔物からも大量収穫できるらしいけれど、この国では栽培された植物から布は作られている。
だから魔物の皮ではない素材から布ができるということにミュコはちょっとピンときていないらしい。
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